飛ぶワームを作ってくれ!

ヒラメ用ルアーというカテゴリーでは、ミノー、ワームは昔から存在します。シンキングペンシル、ブレードルアーもある。でも、それだけでは満足できない。それ以外のルアーを作ろうよ、いままでにないものを作ろうよ、という思いがメタルドライブ開発のスタートです。

僕から開発陣には、飛ぶワームを作ってくれ、とオーダーしました。ヒラメまで届くのであればワームが一番強い。これは経験上、分かっています。釣れるルアーをちゃんと飛ばして魚に届かせ、泳がせれば喰ってくる、ということです。

従来のカテゴリーのルアーでは、ワームを使ったルアー作りのアプローチには限界がある、と感じてもいました。マーケットも飽和していましたしね。

最終的にどんなデザインになるか、どんなものができるかは分からないけれど、まずは僕から開発陣にボールを投げたわけです。いまだから言っちゃいますけど、最初はできないだろう、と思って開発陣に提案した部分もありました。まずは挑戦することに意義があるという思いが強かったんです。

第一段階。プロトモデル以前。

ボールを投げられた当時、シマノ開発陣はサンドライザーの開発も平行していた。加えて、ジグヘッド&ワームというカテゴリーでは、他社製品も含め、優れたルアーは市場にたくさんあった。そのなかで「こころ躍る」製品を作るには、何を作っていけばよいのか?

そこで最初に考え付いたのが、ワームと「熱砂スピンビーム32g」をひとつにしたルアーができないか、というアイデアだった。スピンビーム32グラムの飛距離は申し分ない。メタルのボディがワームを引っ張って飛ぶ。巻くとメタルボディとワームが一体化し、ミノーのように泳いでいく。そんなイメージを描きスタートした。

熱砂 サンドライザー

01T ヒラメゴールド

開発陣が最初に手掛けたのは、メタルボディとワームが一体化した、95ミリ。45.8グラムというスペックの「シロモノ」だった。一般的なタックルでは重すぎて投げることができない。なんとか投げても、横に倒れてしまって泳がない。

飛行姿勢もブーメランのように回転し、10回投げたら9投絡む、という有様だった。反対に、スピンビームをベースにワームの大きさを合わせて装着したら、マイクロベイトになってしまった。現実は簡単ではない。諦めの念が頭をもたげる瞬間もあったという。

そんな折、開発スタッフ同士、ロングドライブする機会があった。車内で担当のひとりが、AR-Cシステムを作った開発者に、メタルドライブに関するアイデアのイラストを見せた。難航していることも伝えた。なんらかの形にするには時間がかかると思っていたが、伝えられた開発者は一週間ほどでプロトモデルを作って持ってきた。

多忙な開発者だったが、何かが彼にスイッチを入れただろう。エンジニアとして引っ掛かるものがあったのかも知れない。いくつかの斬新なアイデアが浮上、暗礁に乗り上げかかっていたプロジェクトが再び動き出した。

なかでも大きかったのは、小さいルアーを飛ばすためには、ワームとメタルボディが一体化していてはいけない、という発想だった。結果、ワームとメタルボディが分離した。

当初は飛ぶルアーであること、そしてルアーとして機能することが最優先された。
しかし、ボディすべてを鉛製にするとウエイトが40gを越えてしまう。一般的にはまだ重すぎた。対応策として、オール鉛製のボディから、ヘッド部だけがABS樹脂に変更された。飛距離を優先するために頭を軽くしたのだ。こうすることで思い切り重心位置を後ろにできたし、シルエットも美しくなった。幅広ボディにはなったが、フックの抱き込みはスプリットリングを利用して固定することで、ひとまずは解消された。

第二段階 堀田さんが初めて目にしたプロトモデル

彼らなりに僕が投げたボールを受け取って、もんでくれた。
それで最初のプロトモデルを見せてくれた。そこで僕も思うところがあるわけです。なんだ、これは、と(笑)。まず、見た目が悪かった(笑)。そして、重い。飛行姿勢も悪い。うまく飛ばない。こんな感じのダメ出しでしたね。

ただ、アーチドライブシステム(の原型)に注目して見たとき、アイデアはいいと思いました。こう来たか、という意外性もあった。じゃあ、このプロトモデルをベースに詰めていこうよ、って感じでしたね。ただ、繰り返しますが、見た目は本当に悪かった(笑)。

開発者はカメムシって言われた、とも言ってましたね。システムの理論的な有効性は理解できるとしても、製品として着地できるかどうか、ここにかなり不安を覚えました。大丈夫かな、と。アーチドライブシステム自体、ユーザーに受け入れてもらえられるかな、とも思いました。

完成度を高めていかないとダメ。ただ、発想はいい。飛ばないものを飛ぶようにして、見た目をブラッシュアップする。ボディ幅を狭くして、ワームとの一体感を出して、というオーダーも出したと思います。最初はワームが下についていたけど、これは上のほうがいいよ、というアドバイスもしましたね。

ベリー部のトレブルフックが回り込んで背中に絡む、巻きこんでしまうというトラブルは、多くのルアーで見られる問題です。スプリットリング、フックの番手を小さくする、という手もありますが、フックは大きければ大きいほどいい。でも、フックが大きいと抱き込みは増えてしまう。抱き込みがないように、という要望は、どうしても叶えてほしいと、最初から伝えてありました。

まずは動きを制限する、という方向性で解決しようと、スプリットリング2つで制限したんでしょう。ただ、スプリットリングを2つ付けるのは、いまひとつ恰好悪いし、フック交換が面倒でもある。もう少しスマートにしてほしい、というオーダーを出しましたね。

ゆっくりと進化していった第三段階

堀田さんからの多くの要望、そしてアドバイスとともにボールが投げ返された。

アーチドライブシステムの原型は第二段階のプロトモデルから存在しており、ベリー部のフックを固定するアイデアもそこにあった。それに加え、第三段階のプロトモデルでは、ボディがスリム化されてワームに合わせた形状が考慮された。一体感を追求した結果としてボディ上部に、ワームが安定することを目的とした溝が彫り込まれた。しかし、この時点で堀田さんの評価による完成度は10点満点中、5.5点。まだまだ飛行姿勢が不安定で、それを反映して飛距離もバラついた。アーチドライブシステムの完成度もまだ低かった。

製品化に必要とされたトライ&エラーの数々

ウエイトが同じでも空気抵抗の違いで、飛距離はまったく異なってきます。もう、それは全然違う。初期の段階では普通のジグヘッド&ワームよりも飛距離が出なかった。だから空気抵抗を減らす形状やウエイトのバランスなどを追求する必要がありました。

このくらいの時期に、ワームの大きさやテールの形状も調整しましたね。シャッドテールは決まっていた。これは基本。ヒラメワームといえばこれ。飛距離と喰わせということでいえばこれ以外に選択肢はないので。

 

ボディとの一体感を出すためには、ワームが水を噛んで暴れすぎるのは望ましくない。また、浮力が高い素材なので、ボリュームをアップするとボディから離れすぎ一体感が損なわれてしまう。空気抵抗も増すため飛距離も落ちてしまう。ここら辺が課題でしたね。

ワームは大きいものから小さくしていきました。
飛距離をチェックしながらこの大きさなら飛ぶね、と。

それから動きかな。一体化を阻害しないように注意した。こっちのほうが泳ぐな、でも飛距離が出ないな。そういう詰め方をしていきました。飛びと泳ぎのバランスを詰めていった結果が、いまの形状です。
2つのものをミックスしていく難しさはありましたが、それでも土台のボディありきで、ワームありきではなかったですね。

ワーム素材の硬さの調整も課題でした。
硬くすることで、フックがワームに刺さらないようにすることは可能です。硬くすれば刺さりにくくはなる。でも、実釣面を優先すると軟らかさも必要。そうした調整もしていきましたね。

※アーチドライブシステム
キャスティング時にワームがボディから離れて空気抵抗を低減、これまでワームが到達できなかったポイントまで到達させる目的で開発された新構造。リトリーブ時にはワームが泳ぎ位置へ簡単に戻り安定。メタルボディのタイトなフラッシングとワームのワイドなアクションでヒラメに強くアピールする。

【次回予告】[Phase3] アーチドライブシステム、そしてプチロックシステムの完成

霧中にあったメタルドライブ開発のスタート。しかし、段階を追うごとに製品化は現実的になっていった。堀田さんが望んだ、「飛ぶワーム」を実現したのは、アーチドライブシステム、そしてプチロックシステムという2大システムの完成だった。

次回へつづく。