残すは1日。生命感ゼロからの回復は如何に
山木一人さんによる霞ヶ浦水系の実釣、2日目がいよいよスタート。
初日はこれまでの記事をご覧になっていただいた通り、生命感ゼロの1日だった。終日、この広大な水系を所狭しと回ったが「ボラが跳ねるのさえ、2回しか見なかったぞ?」と山木さん。常に周囲に目を配り、湖面の様子から微かな変化を感じ取って次なる手へと繋げようにも手立てがない。そんな状態が終始続いたのだった。
実釣前日までの極度な冷え込みから一転して晴天。さらには日に日に水位は下がり、シャローから魚が消えてしまったのだろうか。
ただ1つ、2日目に期待できる要素があるとすれば、初日夕方に新横利根川閘門が解放されたこと。この北利根川へと繋ぐロックゲートは、霞ヶ浦水系との水位差がなくなると開閉を止め開いたままとなる。つまり、霞ヶ浦水系はそれまでの増水からようやく平水位に落ち着いたことを意味する。平水が続けば、両水域の魚も平静を取り戻すのではないか。そう読むこともできる。
「でも、たったひと晩だけだし、どうなんだろうね。それにまた今日(=2日目)も晴天。厳しいことに変わりはないよ」。
初日は晴天ながらも風が吹き、魚が動くタイミングは存在した。この日も何らかの好要素があれば、きっと…。
「おっ?」。
山木さんは何かに気づいたようだ。
キャストしながらも常に周囲の様子に目を配る山木さん。この日の朝も何らかの異変に気づいたようだった。
ポジティブかネガティブか。メンタルも制御
「カワウがいるよ」。
水面に頭を出したかと思いきや、水中へと突っ込み、しばらくした後に浮上するあの鳥だ。
川べりや浅場に細い脚で立ち続け、小魚が通り過ぎる瞬間を待つサギ類はバスアングラーに歓迎される。なぜなら同じエサを狙うバスも同じエリアにいる可能性を示唆するからだ。
対して、カワウは多くの場合、歓迎されるどころか、ブーイングさえ浴びるほど。彼らは小魚どころか…。
「確かに、バスを追い回すっていう意味ではうれしくないよね。でもさ、それでも、そこには少なくとも魚はいるってことの目安にはなるよね。可能性は全くのゼロじゃない」。
山木さんの思考は飽くまでもポジティブだ。前日がこの水系全域で生命感ゼロであることを考えれば、わずかながら回復したとも取れる現象を歓迎しているかのようだった。
ルアーの航跡が残るかのように泡立った水面。着水で泡、ラインとの接点で泡。何をしても水質の悪化が見てとれた。
「でもどうなんだ、これ? ボートの航跡が残るぞ」。
振り返れば、デッドスローで走行する山木さんの愛艇の後方にはひと筋の泡。どんなルートを辿ってきたかが丸わかりだ。
おそらくはターンオーバーという現象だろう。近年メディアで取り上げることは少なくなったが、表層の水温が急激に冷やされることで、ボトム方向の汚れた水と入れ替わりかき混ぜられ、全層の水が悪化して魚の活性を著しく低下させる。山間部のリザーバーを始めとする水深が深いフィールドで大規模に発生しやすいとされるが、水深差を問わず平均水深が浅い霞ヶ浦水系でも少なからず発生するものだ。
「水がどんどん減った後に止まったじゃん。そこでかき混ぜられた可能性はあるよね。まぁ、本当のところはどうかはわからないけど、水がよくないことは確か。さて、どうするかな」。
山木さんはそう言ってストレージから何かを取り出した。
山木さんの手の中を覗き込むと、そこには何と!?
水が悪い→魚は障害物にタイト→答えは?
「こんだけ水が減って、水も悪いんだから、魚は何かにタイトに付いているはず」。
山木さんがラインの先に結び始めたのはスピナーベイト。聞けばウェイトは3/8オンス。スナッグレス性の高さを活かして、あらゆる障害物に対して舐めるようにトレースすることで、一時的に低活性化しているバスの目の前へルアーを送り込むという作戦だ。
…と、ちょっと待った!
そのスピナーベイト、まだ見たことがない!!
いったい何者なのか。
開発中のスピナーベイトの全貌。パッと見ただけでも明らかにいくつかの特徴が…。
「夏にはほぼ完成していて、チャンスがあれば見せてもいいかなと思っていたんだけどね」。
かつての芦ノ湖釣行で「大型が釣れたら、今開発している新作のプロトを使ってみようと思っていたけど、んー、また今度だね」と確かに語っていた。その1つがこのスピナーベイトだったのだ。
パッと見ただけでは、どこがどう機能するのか、我々には判断できない。一部に特徴的なパーツが組み込まれているが、そこに関しては「ノーコメント」。まだ各部の詳細を語ることはできないというが、全体的なコンセプトだけでも教えて欲しいところだ。
「仕方ないなぁ(笑)。じゃあ、ちょこっとだけね」。
打倒ブレーデッドベイト。スピナーベイト復権へ!
「最近の傾向として、スピナーベイトってあまり注目されなくなってきているよね、なぜか。こんなに優れたルアーなのにね」。
スピナーベイトはハリ先を上向きにし、横から見ればワイヤーは常に不等号「<」形状で泳ぐ。何らかの障害物に乗り上げても、バランスを崩さない限り根掛かりのリスクは非常に少ない。また巻き続ける際に正面から障害物に接触しても、ラインアイからロワー(=下側)アームへと滑り、すり抜けやすいヘッド形状が難なく障害物をクリアする。
乱立した杭エリア。ラインを当てながら巻き、超タイトなトレースコースをとってもスタックすることなく、優れたアピール力を発揮する。それがスピナーベイトというルアーだ。
投げて巻けばブレードが回転することによって水中では輝きを放ち、その回転がもたらす振動はアッパー(=上側)アームからロワーへ、そしてヘッドへと伝達。後方に装着されたスカートと共にヘッドは振動して、他にはない高いアピール力を発揮する。
かつては、投げて巻くだけで大型バスが獲れる代表格ルアーとして広く認知。他に比べフックやシルエットが大きいため丸呑みにできる魚は必然的に大型であることも然り。何よりスピナーベイトでしか反応させることができない独自のパワーがあるのだろう。
水面直下を進む様子を撮影した1枚。ブレードが変形しているかのように見える。
「同じワイヤーベイトというカテゴリーのチャター系、いわゆるブレーデッドベイトに人気を分散されつつある。なぜかと考えた時に、巻き抵抗の弱さがある。強過ぎないからチャター系は使い続けやすい。もちろんアピール力も弱まっているわけだけど」。
パワーをベースとしたスピナーベイトで活性の高い魚だけを拾っていくという考え方も1つ。一方で、若干弱いながらも抵抗を減らして、キャスト数を増やすことで確率を高めていくという考え方もある。山木さんが新たなスピナーベイトで出した結論は、そのどちらでもなかった。
「アピール力は強いけど、手に伝わる巻き抵抗を抑えた。もちろん情報として必要な振動は明確に伝わるよ。だから、投げ続けることもできるし、魚を探す効率が高いよね」。
実に合理的! 新たな発想のスピナーベイトが誕生したのだ。各部の詳細はいずれ明らかにされることだろう。
山木さんはスピナーベイトにメタニウムDC XGを使用。ギア比8.5、最大巻き上げ長はハンドル1回転91センチ。多くの場合、スピードはミディアム以上、時にかなりの速巻きも。
徐々に活気づく水面。しかし、水質は…
「今日はイナッコ(=ボラの幼魚)が跳ねる姿が見えるようになったから、多少よくなった感じはするよね」。
朝から昼、そして午後へと向かうに連れ、昨日とは状況が一変。水面で盛んに小魚が跳ね、場所によってはライズリングも見える。時にはこの水系でキーとなることも多いシラウオの姿も。春に見かける成魚サイズではなく小型ではあるものの、水系全体で魚たちが活性を高める準備が整ったとでもいうべき状況だった。
「いや、でも水は一向に良くなっていないよね、ホラ…」。
投げては巻きを繰り返し、水を拾ったラインをリールが巻き上げる際、レベルワインダーとの接点で発生した飛沫がロッドのバット部分へ跳ね返る。その水滴は時間が経つと共に乾燥して、漆黒のバンタムロッドを白く染め上げていく。メタニウムDC XGの精悍なボディもいつしか白いドット模様、まるでホワイトカモフラージュに塗装されたかのようだ。
障害物にタイトに着くであろう魚を狙い、活気づき始めた表層を意識する魚を狙い、もちろんその中間に当たる中層も狙い切った。リトリーブスピードはスローも高速も、そしてミディアムも、もちろん試してきた。しかし、なぜか反応はない。
「朝、コザックで一瞬スタックして外れた瞬間にバイトがあったよね。それを考えたら、速いのはまず論外。横方向に巻くのも今日なら本来はない。けど、どうにか喰わせたい」。
その魚は追尾してきた末のバイトなのか、それともその場にいた魚が反射的にバイトしたのかは定かではない。
「水温が低くなるほどにリアクションへの反応がよくなるのは確かだけどね」。
残す時間はあとわずか。時計の針は午後15時を示そうとしている。日没まで2時間弱。もはや万事休すか。
いや、山木さんがノーフィッシュで終わるはずはなかった!
15時07分、バンタム168ML-Gのバットに右手を添えて、一気に抜き上げ! 冬間近ながら腹をせり出したグッドコンディションに、山木さんは満面の笑みを浮かべた。
<使用タックル>