へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

“飛天弓 柳” 悦楽の深宙。吉田康雄×戸面原ダム【後編】

猛暑と豪雨が交互にやってくる晩夏ならではの一日。
吉田康雄は、久しぶりに千葉県房総半島の雄、戸面原ダムを訪れた。
名ポイント、本湖「石田島」立木。釣り方はもちろん、深宙両ダンゴだ。
そしてその右手には、「飛天弓 柳」。キラキラと光る細身のグリーンが、戸面原ダムの濃緑とシンクロする。
15尺から、13.5尺へ。地合を確実に捉えた若武者が、真夏のダム湖を存分に愉しむ。

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13.5尺へ。

さきほどまでの真っ暗な空が一変、いきなり頭上に真夏のブルーが広がった。
「暑いですね(苦笑)。でも、こんなに暑いのもあと少しで終わりなんですよね…」
足早に過ぎ行く夏を惜しむように、吉田の釣りはますますヒートアップしていく。
まずは、エサ。
「硬めに作って手水でいじっていくと、よけいなネバリが出ちゃうせいか、アタリが飛んじゃいますね」
吉田はそういうと、2つ目のボウルは「浅ダナ一本」の量を200ccから150ccに変更し、基エサを軟らかめに仕上げた。
「このエサをあまりいじらずに打ちきっていく方が、アタリが続きます。カラツンも少ないです」

エサはシンプルな4種ブレンドによるネバボソタッチで、主にエサ付けの際の圧で対応。「浅ダナ一本」の分量を減らして軟らかめに仕上げ、それをリズムよく打ち切っていくような釣りを基本線とした。野釣りということで寄せを意識しながらテンポよく打ち返していくが、アタリは「深くナジんでドン」に的を絞り、丁寧に釣っていくのが当日の急所。竿を短くした後も、吉田はこれをきっちりと守り、ある意味では管理釣り場以上に丁寧な釣りを心掛けていたのが印象的だった。

釣れる時はウキが立ち上がった直後からウケが出て、フワフワとサワりながらナジみ、かなりナジんだところで「ダッ!」と落とす。それより早いアタリもないわけではないが、乗りは悪く、ウワズリを招いてリズムも崩してしまうようだ。
「寄りをキープ…といっても、雑にいっちゃうとダメですね。ちゃんと深い位置のアタリを取っていかないと、案外簡単に釣りが壊れてしまいます。もしかしたら、タナも合ってないのかもしれませんね」

ウキはもちろん自身が作る「吉田作」。この日使用した「深ダナパイプ」は、デビュー当初からラインナップにある超定番モデル。オールマイティー的な性格で、深宙のみならず様々なシチュエーションにマッチする。

飛天弓 柳」15尺、深宙両ダンゴ。活気溢れるへらをいなすような釣りで、10時にはカウンターに「35」の数字が積み上がっていた。いつの間にかハリスは45―60cmに詰められ、ハリも8号にサイズアップ。「丁寧な速い釣り」で、吉田は確実にカウントを重ねていた。
「しかしこの天候は強烈ですね」
バケツをひっくり返したようなスコールの後には、一気に晴れて、真夏の太陽が容赦なく湖面を照りつける。まるで蒸し風呂のような暑さだ…。
しかし、吉田は嬉々として竿を振り続ける。型は9寸から尺級を主体に、時折尺2寸級が交じる、きわめて健全なへら鮒釣りだ。

「ちょっと変わってきましたね」
順調な釣りに変化は出始めていたのが、正午過ぎ。50枚を超えたあたりから、カウンターの進みが目に見えて鈍くなっていたのだ。
「『深く入ってドン』が一番乗るんですが、そういうアタリがガクっと少なくなりましたよね。感じとしては、へらの活性が下がったというより、タナが上がった感じがします」
吉田の対応は早かった。
竿を15尺から、13.5尺へと短くする。
「こういう時の1.5尺刻みって絶妙ですよね。ちょっと竿を短くしたい時、14尺だと物足りないし、13尺だとやり過ぎ感がある。この 1.5尺刻みっていうのは、見事にへら師の心理を突いていると思いますよ」

釣り風景。戸面原ダムの濃緑に、「飛天弓 柳」の大きなカーブが映える。

釣りはメンタルな遊びである。もしかしたらこの場面、15尺から13尺にしても、同様に釣れたかもしれない。でも、13.5尺という「絶妙感」が釣り人に心理的なアドバンテージを与え、それが良い結果につながるのだ。野釣りの深宙では特に、これは大きい。 竿を「飛天弓 柳」13.5尺に替えて打ち始めると、またしても雨。日傘がそのまま雨傘になり、また晴れて暑くなって乾く…という不思議な天候の中、吉田の釣りはここからさらなる熱を帯びる。
「うん、いいですね。タナは13.5尺でドンピシャって感じですよ」
深くナジんだところで出る強いアタリ。再びこれが戻ってきた。やはり喰い気のあるへらのタナは、微妙に上にズレていたのだ。
名ポイント「石田島」立木で、竿を大きく曲げる吉田の笑顔が弾ける。

夏の思い出。最高の一日。

「へらのタナ自体もそうなんですが、楽にエサが持つようになりましたよね。なので、ハリは7号に戻しました。その方がよりカラツンも少ないんですよ」
エサには目立った手直し等は施していない吉田。竿を15尺から13.5尺に短くした時もブレンド等は変えておらず、そのままだ。ただ、軟らかめに仕上げた基エサを練る回数は減り、そのままフワっと付けてエサがもつようになったという。これもまた、タナを浅くした効果だろう。さらに吉田は追い討ちをかけるべく、大きくしていたハリを元に戻している(ハリス長は45―60cmのまま)。このあたりも、さすがにソツがない。
タナと釣り方が合ってくると、どうなるか。
そう、数が釣れるだけでなく、「型」がよくなってくるのも野釣りの醍醐味だ。
時間帯的なものもあるのかもしれないが、釣りが決まった午後は、地べら化した大型もポロポロと交じってくる。それがまた、この日の釣りをよりいっそう贅沢なものにしていた。

「ほんと、印旛以外だと大きいのが釣れるんですよねぇ(笑)」
40cm級の大型を手に、思わず表情が崩れる吉田。これもまた、荒れた天候の中で頑張っている「ご褒美」か。
「いや、『頑張っている』という感覚はないですね。今日の釣りは本当に愉しいし、ストレスがないんですよ。ロケーションも最高だし、へらも元気。最高の釣りです」
今日1日で、吉田は「最高」という言葉をいったい何度使ったことだろう。大の大人をここまで夢中にさせ、笑顔にさせるへら鮒釣りとは、なんと素晴らしい遊びか。

「今日はお世辞抜きで、この竿のおかげもありますよね。魚を掛けるたび、とにかく愉しい。だからもっともっと釣りたくなる。こんなに愉しい竿、しばらくなかったんじゃないですかね。デザインも個人的には大歓迎で、戸面原ダムの濃い緑とも絶妙に合っているような気がしませんか? とにかく使っていて愉しい。『勝つ』とか『たくさん釣る』とかって、その先にあるもので、第1目的じゃないんですよね。とにかくまずは釣りを愉しまなくちゃ。今日はそのことをあらためて確認出来た、最高の1日になりましたよ」
15時30分まで目一杯竿を振った吉田。終盤は大型が交じる確率もどんどん上がり、まさに「最盛期の戸面原ダム本湖の釣り」といった様相となった。吉田はまだまだ釣り足りなそうだったが(苦笑)、その釣果は81枚。十分だろう。

終盤、荒々しい岩盤をバックに、大型を絞る吉田。しなやかな「飛天弓 柳」は、強力な戸面原ダムの地べら化した大型の引きを巧みにいなし、優しく浮かせてみせる。綺麗な弧を描く竿。フワリと浮上する大型…。へら鮒釣りの所作の中でも、最も美しい瞬間かもしれない。

 終盤、ご覧のような地べら化した40㎝級も「飛天弓 柳」を大きく曲げた。めまぐるしく変化する天候の中、思い出に残る夏の1日となった。

「今回、最盛期の戸面原ダムに来てみて、そのロケーションもさることながら、魚のコンディションがいいのに驚きました。8寸くらいの小型でもとにかくよく引きますし、魚自体もすごく綺麗。そんな中に尺上や40cm級が混じるのですから、愉しくないはずがないですよ。またすぐにでも来たいくらいです」
夏の思い出、最高の1日となった。

シマノインストラクター
吉田 康雄

1976年、東京都荒川区で生まれる。
数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たしているが、記憶に残るのは99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会の準優勝と、14年に実現した同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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