へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

「普天元 獅子吼」、降臨。
【その1】吉田康雄 in 新木水路

今、また始まる普天元伝説――――――。
三人の名手たちが、じっくりと向き合う。
時代を創る「普天元」の新作、「普天元 獅子吼」、堂々デビュー。
その開発にも関わった名手三人が、それぞれのフィールドで大いに語る!
第一弾は、吉田康雄 in 新木水路。
そこには、「獅子吼」でこそ味わえる、そして身近な釣り場でこそ味わえる「最高に贅沢な時間」が待っていた。

完全なるブランニュー。しかし、どこをどう切っても「普天元」なのが凄い。

しかし今回の普天元は、俗的な表現で言えば、相当に「ヤバい」。
初代「普天元」。
二代目「普天元 大我(たいが)」。
三代目「普天元 独歩(どっぽ)」。
そして…
すでに完全に次元の違う世界を独り歩きしてしまっているかにも見えた普天元が、またさらに時空の遥か彼方に飛んで行ってしまったかのような――――――
四代目、「普天元 獅子吼(ししく)」、堂々降臨。
先行して届けられた「普天元 獅子吼」。告白すれば、パっと見た時、実は「感動」より「落胆」の方が大きかった。見た目は、少し遠くで離れて見たら「新作」と分からないほどの超キープコンセプトだったのだ。
完全に「独歩」のデザインを踏襲する芽出し段巻。明らかな違いと言えば、漆黒の塗りに赤系の透かしが渋く輝いていた「独歩」に対し、「獅子吼」ではそれが紫基調になっていることくらいか。
しかし、である。この「もう少し変えてもよかったんじゃないの!?」というほどの超キープコンセプトが確信犯だったのではないかと思えるほど、ひと振りしてこれは「完全なる別物だ」と思い知らされる。シマノがここ10年で培ってきた技術の集積と新たなる挑戦が詰まっていたのだ。
なんだろう、とても不思議な竿である。豊かに曲がるカーブ。しなやかな本調子。手にズッシリとくる重厚感。
もったいぶらずに言うなら、これは紛れもなく「普天元」だ。しかしそこには、どうしようもない「別物感」が確固として鎮座している。
今回、シマノは新たな試みとして不等長設計に挑戦している。どういうことかというと、簡単に言えば各継の長さが穂先に向かって短くなっており、特に元と元上の長竿が異なるというのは、へら竿史上でも初ではないだろうか。竿をしまった時に2本の長さが揃わないという見た目上のデメリットをあえて受け止めつつ、安易に素材を硬くしたり太くしたりすることなく、普天元らしいしなやかな竿のまま、へら竿らしい「先抜け感」を演出したのである。こと竿の感触ということに関して言えば、今回の「獅子吼」ではこれが一番効いているのは間違いない。「へら竿のタブー」にあえて切り込んだことで、見えてきた新世界があったのだ。
もちろん旗艦らしく、「スパイラルXコア」、「しっとり綾織握りII」、「力節」といった技術はフル装備状態だ。また短竿(7~9尺)の穂先には、カーボン芯にさらにカーボンを巻き上げた新製法にて、これまでにない新感触を得ている点にも注目。10.5~13.5尺は安定の半無垢穂先、15~21尺は軽量かつしなやかな新しいチューブラー穂先を実現している。
しかし、いつもシマノが素晴らしいのが、最新技術の集合体のような竿をそのまま誇示するのではなく、テスター陣による気の遠くなるようなフィールドテストによる「官能評価」でまとめあげていることだろう。とある古株テスターは筆者に、「今回の『獅子吼』は今まで関わってきた竿の中で一番長い期間テストしてきた」と吐露していた。
スっと抜ける感触もある。不思議な力強さもある。しかし、どこをどう切っても「普天元」…。
嗚呼、なんと表現したら伝わるのだろう。自分の語彙力のなさを嘆きつつ、名手たちにバトンを渡したい。「雄弁に語る」という意味を持つ言葉であるという「獅子吼」。そしてもちろん、「獅子吼」が最も雄弁に語るのは机上ではなく「フィールド」なのだ。

吉田康雄、身近な野で「獅子吼」と語らう。

新しい「普天元 獅子吼」の実釣取材を持ちかけると、吉田康雄は意外な場所を提案してきた。
吉田の自宅からほど近い、千葉県・手賀水系「新木(あらき)水路」である。
筆者も以前は通ったことがある懐かしい名前で、近年も変わらず釣れているという噂は聞いていたが、小場所で、どちらかといえば手賀川等のメインの釣り場の逃げ場的な印象があった。
「いえいえ、これがなかなか面白いんですよ。けっこう攻められているので釣りはシビアですし、かなり愉しめます。」
しかし正直思った。なぜ、この「普天元 獅子吼」のデビュー戦に、あえて新木水路なのか…。
しかしそこには、吉田らしい確固たる狙いがあった。
「僕達のように関東のド真ん中に住んでいれば、釣り場は選びたい放題ですよね。管理釣り場はもちろん、今の時期ならダイナミックなダム湖や山上湖もいい。ただ、全国的に見た時、おそらくほとんどの方達がそのような環境にはありませんよね。そんな時、やっぱり身近な河川や湖沼の釣りって貴重だし、実は僕達が一番大切にしなくちゃいけないって思ったんです。それに、新しい『普天元』を持って新木水路なんて、ある意味、最高に贅沢じゃないですか!?」
なるほど、ビッグトーナメントの先頭を走るトップランナーでありながら、長靴を履いた平場の野釣りもこよなく愛する吉田らしい考え方ではないか。
筆者は吉田に乗った。
梅雨真っ只中の7月2日(木)、夜明けの手賀北新堀(手賀川)浅間橋北側にある新木水路に到着すると、すでに吉田はせっせと釣りの準備を開始していた。この日は未明から南寄りの強風が吹き荒れていて、「釣りになりそうなのはこのあたりだけですね」と、機場に近いところの東岸に釣り台をセットする。その間にも続々と釣り人がやってきて、人気のほどが窺える。
「昨日の大雨で濁りが入っているのが気になりますが、とりあえずやってみましょう。」

●竿
シマノ【普天元 獅子吼】10.5尺
●ミチイト
1.0号
●ハリス
上下0.6号 15―22cm
●ハリ
上7号 下6号
●ウキ
吉田作 プロトタイプ(カヤB4.5cm ※エサ落ち目盛は全7目盛中、2目盛を沈めた位置)
●タナ
ウキ~オモリ50cm
●バラケ
Sブルー 400cc
水 100cc
●クワセ
ヒゲトロスペシャル

「ダメですね。釣りになりません(苦笑)。」
4時30分に打ち始めてすぐ、吉田が呟く。勢いよく手賀川へと水を吸い込んでいるのか、機場方向への流れが急で、釣りにならないという。
ここで吉田は早くも釣り方変更を余儀なくされる。外通しの「ドボン」だ。0.5号のスナップ式の外通しオモリを取り出し、手際よく仕掛けを変更。ウキも「ルーチェ」4番に。
ポイントの水深は約1m程と浅め。徐々にウキ下を深くしていき、完全に振り切って水面上に2目盛が出るように調整する。
「この流れで、普段喰わない魚が喰っちゃうかもしれませんよ(笑)。」
茶色の泥濁りと予想外の急流。不安が募る筆者をよそに、吉田はいつものようにポジティブシンキングで明るい表情を崩さない。

●バラケ
ダンゴの底釣り夏 50cc
バラケマッハ 50cc
水 60cc
●クワセ
野釣りグルテン 1分包
水 40cc

エサもバラケ&グルテンに替え、仕切り直し。軽めのオモリだが、どうやら流れは止まって釣りになりそうだ。
「まずはこの『獅子吼』の振り調子、ですよね。先代の『独歩』のボテっとした感触が薄まって、先に抜けるすっきりとした感じが強くなっています。これはもちろん、不等長設計の賜物でしょう。でも、じゃあ先調子の竿になったのかといったら、全然そんなことがないのが面白いですよね。あくまでも『普天元』らしい本調子をベースとしながらも、大幅に洗練された感じです。」
周囲にはたくさんの釣り人。しかし吉田が振っているのが新しい『普天元』であることは誰も知らないし、誰も気づかない。すっかり風景に溶け込んでしまっているのだ。
愉しそうに、そして何かを確認するかのように丁寧にエサを打っていく吉田。まず改めて、その洗練された振り調子に陶酔しているようだ。
ご存知のように、吉田は「飛天弓 柳」に代表されるような「曲がる竿」が大好きであると公言している。その「柳」が釣行のメインになっている吉田にとって、この「普天元 獅子吼」はどのような位置付けの竿となるのだろうか。
「一言で言えば、『柳』の親分みたいなもんですよ(笑)。さすがフラッグシップ、誤解を恐れずに言えば、ものすごい『格上感』を感じますね。系統的にはじんわり曲がる本調子ということで同じ方向を向いている竿だとは思いますし、『柳』には超細身という個性もありますから一概には比較出来ないんですが、こちらはよりへら竿の王道を堂々歩くような、そんな威厳を感じます。そしてこの振り込み性能!軽い仕掛けもあっけないほど飛んでいきますし、そこに唯一無二の『感触』というか、プラスアルファがあるんですよ。もうほんと、振っているだけで愉しくなる竿ですよ。」
まだエサを打ち始めただけなのに、興奮気味に話す吉田の表情が全てを物語っていた。ひと振りするだけで極上の満足感に包まれるかのようなこの感じは、「普天元」ならではなのだろう。

颯爽と新木水路に現れた吉田康雄。現役バリバリのトップトーナメンターであり、同時に野の釣りもこよなく愛する吉田にとって、新木水路は自宅近くにある「癒しの釣り場」的存在。そこにあえて「普天元 獅子吼」を持ち込んだのは、「身近な釣り場こそ最上級」という信念があるからに他ならない。

いきなりの大型。最高の1日。

久しぶりに雨が降っていない朝。どうやら今日は風は強いが雨の心配はなさそうだ。
まだ朝焼けも抜けきらない5時45分、いきなりドラマがやってくる。
「ん?何か動きましたね…。」
振り切ってオモリが着底し、水面上に2目盛を整えた直後、「フッ」とイトズレのような動きが出た。明らかに魚がいる。
早切りは無用と、吉田はじっくりと待ちの構えを示した直後、いきなりトップが「グググ…」とボディまで豪快に喰い上げてきた。
“クン…!”
それは「ガツン!」でも「ゴン!」でもない、「クン…!」という弾性感溢れるアワセの感触だった。
直後、豊かに曲がる竿のカーブがまだ残る雲をバックに浮かび上がる。
「へらですよ。しかもデカい!」
思わず腰をかがめて竿をタメる吉田。絶対に逃すまいと慎重に竿をタメ、それを浮かせた。
まさにへら鮒。しかも大きい!
そこからはまさに、「普天元 獅子吼」の真骨頂。
まるでへらの「暴れ」のスイッチを切ってしまったかのようなソフトな感触をこちらに伝えながら、優しくタモまで導く。
「よし!釣れましたよ!しかもデカい!」
思わず咆哮を上げる吉田。
新木水路では珍しい、38cmの大型。しかも傷一つない美べらだった。
「いやぁ驚きましたね。こんなのもいるんですね(笑)。昨日の雨とこの流れがいい方に作用したのかなぁ!」
意外な1枚目に目を丸くする吉田。そしてその10分後には、同じく喰い上げで尺上の美べらを追釣する。
「この『獅子吼』、やっぱり釣り味も最高ですね。月並みな表現ですが、軟らかいんですけど、勝手にへらが上がってきちゃいますよ。こういう浅場の釣りってけっこうへらが暴れるんですが、それがまったくない。乗込みで使いたくなるくらいですよ(笑)。」
雲が去り、頭上には本当に久しぶりに青空が広がった。
9時、流れが止まると、吉田は新木水路の「いつもの釣り」であるヒゲトロセットにチェンジ。そして、いつもの強烈なカラツンに悶絶しながら、ちょっと意地悪そうな顔をしたへら鮒達と遊ぶ。
「先日はヒゲだけにして待っていた方がアタったんですが、今日は逆ですね。バラケが付いている時にアタらせないとダメな感じです。」
浅いタナの釣りになると、へら鮒達の沖走りはさらに強烈になる。しかし『獅子吼』はそれを余裕を持って受け止め、釣り手に「愉しさ」だけを提供してくれる。
そして最後に吉田はこう言ってこの日の釣りを締めくくった。
「こういう釣り、贅沢ですよね。そしてこれからは『柳』か『獅子吼』の選択で頭を悩ませそうです。それもまた、贅沢な悩みですよね…。」
ハイエンドなものだからといって、使い手を選ぶわけではない。
逆、である。
最高な竿であるからこそ、「全ての釣り人に体感してもらいたい」という、雄々しくも「優しい咆哮」が詰まった「獅子吼」。
身近な釣り場でとにかく愉しそうな吉田康雄の姿を眺めながら、筆者はそんなことを強く感じたのである。

ドボンで流れに耐えていた吉田に、いきなりのアタリが。大きく絞り込まれる「獅子吼」。じっくりとタメて浮かせた魚は、新木水路では珍しい、38cmの大型だった。

シンプルな吉田の外通し「ドボン」仕掛け。本命はヒゲトロセットだったが、急場凌ぎのドボンに思わぬ大型が乗った。

シマノフィールドテスター
吉田 康雄

1976年、東京都荒川区で生まれる。
数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たしているが、記憶に残るのは99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会の準優勝と、14年に実現した同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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