へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

吉田康雄vs印旛2019 その2 【前編】

釣っても釣っても、喰ってくるのはマブナ。
「本命」は掛かってもスレのみ…。
今年も容赦なく牙を剥く、印旛の春。
しかしそこには、確実に存在する。
簡単には釣れない。分かっていても、挑まずにはいられない何かが…。
印旛ゴーマル挑戦2019春。
果てなき激闘の先に、吉田康雄が見たものとは…?

勝負、「飯野機場前」。

いざ後半戦。4月20日(土)、「決戦の地」に吉田が選んだのは、このシリーズでも度々登場しているポイント、印旛沼西部調整池「飯野機場前」のガマ穴。過去にはここでゴーマル級の巨べらをスレで掛けたことがあり、吉田が「勝負ポイント」として認識している場所だ。「今度こそ喰わせる」。へらはいた。「ボーダレス」22.5尺で沖のガマギワ、そして「またたき」10.5尺で手前…。なりふり構わぬ全力を注いでの闘い。しかし、春の印旛はまたしても大きな「壁」となって立ちはだかる。

いよいよ春も深まり、「本命」達が浅場を目指してつっかけてくる…。
「いよいよですね。もう浅場にいて間違いない時期です。そして、大ハタキの時はなかなかエサを追わないので、タイミング的にはまずまずだと思うんですよね。」 
4月20日(土)。後半戦1発目の取材。タイミング的には次のハタキ間近といったところか。吉田が言うように大ハタキとなれば「いても喰わない」状況となることが過去の経験から濃厚で、「その一歩手前」は確かに上々の頃合いにも思えた。
期待を胸に吉田が夜明けから入ったのは、印旛沼西部調整池「飯野機場前」のガマ穴。背後には水路が流れていて、増水時には足元から水が勢いよく吹き出ることにより植物帯がえぐれてそこだけワンド場に拓けているというシチュエーション。吉田自身、過去に巨べらに最も近付いた「勝負ポイント」と言うべき場所だ。
夜明けの気温は6度。今年の春は、本当にいつまでたっても寒い。しかしこれも吉田にとっては好都合。寒ければそれだけマブナの動きも鈍るからだ。

まだ月灯りが煌々と周囲を照らす夜明けとともに「飯野機場前」に入る吉田。まずは「ボーダレス」22.5尺で沖側のガマギワを打つ。

近年の印旛沼、とにかくこのマブナの魚影が濃い。加えて食欲も旺盛で、本来なら「大本命」となる増水期のゴールデンウィーク時期ともなるとさらに元気になり、ただでさえ薄いへらを跳ね除けるようにエサに飛びついてきてしまう。
狙うなら、まだ寒い今。
吉田の目論見は半分当たり…。

勝負の後半戦、真剣な表情でウキを見つめる吉田。

5時、エサ打ちを開始する。土手を降りて左寄りに座った吉田がまず取り出したのは、意外にも長竿。「ボーダレスGL Nモデル」の22.5尺だった。
「なんでもやりますよ。『乗込み期=短竿』なんて常識は、今年の僕にはもうありません。今年はもういろいろな意味で吹っ切れてますんで。」
ポッカリと空いた植物帯が形成するワンド…というよりは、大きな「穴」。その手前を狙うのではなく、沖側のガマギワを狙う釣り。もちろん底釣りだが、ウキ下は手前とほとんど変わらない60cm程度。見た目はもう「長竿超カッツケ」という、凄まじい釣りだ。
まだ寒いとはいえ、少しでもマブナを反応させぬよう集魚剤の入らない両グルテン。これをタスキ振りではなく、鮮やかな送り込みでピンポイントにガマギワに落としていく。「ボーダレスGL Nモデル」はただ強いだけでなく、その振込み性能も卓越している。

超長竿&超浅場の底という常識外れな釣り方で、卓越した振込み性能見せた「ボーダレス」。ただ強いだけではなく、他のシマノへら竿ラインナップ同様、へら竿らしいしなやかさも内包する懐の深いロッドに仕上がっている。

朝の2時間は、何も起こらず静かな時間が流れた。
「いいですね。まずは『マブナが来ない』というのがいい感じですよ。」
7時20分、打ち込んでから6分ほど待ったタイミングで、突然「ズッ」と落とす。
へら。しかし、スレ。一瞬銀色の背中を見せた後、ガマの中に消えた。
「いましたね。」
いる。へらはいる…。

狙い通り機場が動き、足元から激しい水流が吹き出す。

機場、動く。千載一遇のチャンス。

その後もマブナは来ない。いい感じだ。ウキにも時折イトズレらしき動きが。おそらく、へら。しかも、そのアオリの雰囲気からかなりの大きさだ。
完全に喰い気を失うハタキに入る前の、最高のタイミング。これであとは何かのきっかけでへらの喰い気にスイッチが入ってくれれば…。
そんな吉田の願いが天に通じたのか、「奇跡」が起こった。
ゴゴゴゴ…。
突然、地震でも起こったのかと思うような大きな地響き。そして、足元から激しい水流が吹き出し始めたのである。
「よし、機場が動いてくれた!」
みるみるうちに激流となって沖へと吹き出す水。背後の飯野機場が稼働し、飯野水路から水がやってきたのだ。
水路の水位が上昇すると自動で稼働するようになっているらしい機場。それはまさに信じられない、奇跡のようなタイミングでの稼働だった。
激しい水流が渦を巻く。22.5尺ではウキが流れになぎ倒されて釣りにならないので、「渦」の影響が薄い右手前のヘチに向けて釣り台を移動させる。ここで繰り出すのは…
飛天弓 頼刃 またたき」10.5尺。

飛天弓 頼刃 またたき」10.5尺。穂先を抜かれることのない「振出穂先」を採用した画期的な「乗込み浅場短竿仕様」。強靭無比のパワーと、ただ硬いだけではないしなやかさを両立させている唯一無二の存在。

斜めに向き、手前ヘチの植物帯のキワを狙い撃つ。へらは次なるハタキに備えて超浅場を意識しているはず。そして、機場稼働によって発生した水流により、その喰い気にもプラス要素が生まれているはずだ。流れでも抜けないよう、グルテンも繊維の強いタイプをブレンドする。
完璧なシナリオだった。
ここまでは…。

激しい水流の影響の少ない右端に移動し、「飛天弓 頼刃 またたき」10.5尺でヘチ寄りのガマギワに勝負を賭ける。狙い通りへらはいた。しかも、かなりの大型。しかし…。

「あとはもう、本当に喰うかどうかです。」機場が動き、場所を移動してから2時間後の10時44分、ハリスオモリでガッチリ流れを止めると、いきなりアタってへらのウロコ。
嫌な予感。
そして11時45分。この嫌な予感が的中してしまう。
豪快なアオリ。我慢、我慢…。
一瞬静かになった後、「ズン」と重々しく落とした。
アタリは完璧だった。
「ガツン」と「またたき」の竿先が止まる。
今度こそ喰ったか!?
「うわっ!」
直後、吉田の悲鳴のような叫び声が辺りに響き渡った。
かろうじて止まった。しかし、掛かっていたのは口ではなく、エラの横。
「デカいですね…。」
なんとも言えないトーンの声で、吉田がポツリと呟いた。丁寧にタモに収めた魚。もちろん吉田は検寸することも写真撮影を促すこともなく、「ゴメンね。」と言いながらすぐに水中にリリースした。
計っていないから分からないが、間違いなく尺半上はあろうかという見事な魚体に、思わず震えてしまった。
「機場も動いてくれ、狙ったポイントもドンピシャ。まあでも簡単には釣らせてくれないですね…。」
しばし呆然の後、吉田はそう言ってスーっと息を吐き、ワンドの奥に広がる大きな湖面に視線を投げた…。

このスレ掛かりの後、無情にも機場は止まった。穴全体の水流は収まリ、流れは止まって釣りやすくなるも、へらの気配も止まる。さらに悪いことに、急速な減水がやってきた。
「この大きな印旛沼の水位がこんなに一気に下がるなんて、いったいどんなメカニズムなんですかね(苦笑)。」
もはや手前には魚の気配はないどころか、水もない。最初の左側の釣り座に戻り、竿も「ボーダレス」22.5尺で水の残る沖のガマギワを打つが、何としても竿を曲げるのはマブナのみ。18時30分、ついにウキが見えなくなり、投了。
またしても、跳ね返された。

頼みの綱の機場の水流が止まると、あっけないほどへらの気配も消えた。再び「ボーダレス」22.5尺を出して沖側を狙うも、「たまにアタってマブナ」という最悪の展開に。最高の期待感から、絶望への転落。ウキが見えなくなるまで喰らいついた吉田だったが、夕まずめに竿を曲げるのは何としてもマブナ。ついにへらの気配が戻ることはなかった。

シマノインストラクター
吉田 康雄

1976年、東京都荒川区で生まれる。
数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たしているが、記憶に残るのは99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会の準優勝と、14年に実現した同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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