へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

吉田康雄vs印旛2019 その1 【後編】

毎年春、印旛挑戦を続けている吉田康雄。しかし、印旛のへらの魚影はますます薄くなっている感すらある。
ゴーマル(50cmの巨べら)どころか尺半(45cm)、いや、オデコ回避さえ難しい…。
近年の最大魚は一昨年、2017年春に印旛新川「先崎(まっさき)干拓」で釣った42cm。
「手強いですね。でも、だからこそ愉しい。今年ももう年明けからワクワクが止まりませんでしたよ」
しかし、“漢”吉田康雄に悲壮感はない。
釣れない。手強い。だからこそ燃えるし、何より愉しい。
2019年春、あらためて「原点」に帰って野釣りを心から愉しむ姿が、そこにはあった。
果たして、自然体に回帰した吉田に、野の女神は微笑むのか。

前編記事はこちら

これぞ野釣り。まさかの1枚!

とにかく寒い。
吉田も記者も上下ダウンウェアにしっかりと身を包み、動くとは思っていないガマギワに立つウキを眺める。
「さすがに無謀でしたかね(苦笑)。でも、このシチュエーションを1年間ずっと愉しみにしていたんですよ。幸せです。」
短竿、超浅場、ガマギワに立つウキ…。
そう、これなのだ。
「ぶっちゃけ、長竿のドボンなら冬の手賀沼水系で十分釣れますから(笑)。春の野釣りっていったら、やっぱりこれなんですよね。釣れようが釣れまいが、ガマ際にウキを立てるだけでドキドキする。このドキドキ感が一番大切なんですよ」
午前中はノーピク。モジリはおろか、ガマやマコモもフラリとも動かない。
しかし風はなかなかいい感じで、「ドボンドボン一歩手前」。まさに釣れる時の雰囲気に近い。

いつもどおり1投にじっくりと時間をかけて、「エサを打ち過ぎないように」気を付ける吉田。ノーピク状態のこともあり、1投に20分以上かけることもあった。そして、3投ほど打って(それでも1時間以上)何も反応がないと15分ほどの床休め。
のんびりした釣りに思えるかもしれないが、感覚的な時間の経過は驚くほど速い。
「風は凄くいい感じなんですよね。やっぱりベタ凪だと釣れる気がしないんですが、ここは本湖に面しているので、ちょっと強くなるとすぐにドボンドボンになって釣りにならなくなる。その点、今日はちょうどいいんですよね。東風で冷たいのは気になるんですが…」
何もアタらない。マブナもコイも釣れない。でも、なぜか期待感はある。
言葉では表現しづらいのだが、そんな雰囲気は確かにあった。
そして、「その時」は突然来た。

いつ何が起こるか分からない。それこそが、野釣りの醍醐味。「その時」は突然やってきた。

11時44分。
相変わらず気温は寒いままで、朝よりは少し上がったとはいえ、6度。正直、冷静に見ればとても超浅場で釣れる雰囲気ではなく、「日暮れまでに1回くらいアタってくれたら上出来ですよね。」などと話していた、まさにその時だった。
「ん!?何かいましたよ。」
記者はその目で捉えることは出来なかったのだが、僅かにサワリのようなものがあったという。
じっくり待って何も起こらないのを確認し、竿を上げる。
そしてその次投。
5分ほど待ったところで「グワン」と、確かなアオリが出た。
“何かいる!”
さらに待つ。
さらに3分ほど待ったところで、不自然に持ち上げてきたトップが1目盛、はっきりと「ツン!」と落とした。
「マブナか!?」
ゴツンと竿が止まった瞬間、吉田が発した言葉がこれだった。正直な心情だろう。まさかこの状況で「本命」が釣れるとは、記者も吉田も露ほども思っていなかったのだから。
「またたき」のパワーに、一瞬、それは水面上に飛び上がった。
「へらだ…!」
次の瞬間、吉田と記者は同時に叫んでいた。まるでバスのように空中でもんどりうったのは、銀色に輝く幅広の魚体。
タモを手にした吉田の腰が浮いた。
そこからは、慎重に、慎重に…。数秒が1分にも1時間にも感じられた…。

歓び…というよりは、あまりに突然の出来事に目を見開いて唖然とする吉田。予想だにしていなかった今季初アタリでの初べらは、見事な魚体の38.8cmであった。

38.8cm。そして…

歓びを爆発させる…というよりは、唖然として立ち尽くす吉田。
まさか、今季初アタリで初べらが釣れようとは…。
「そんなに大きくないけれど、これは嬉しい…というより、驚きですね。こんなに静かな超浅場の水中に、コイツがいたんだって想像するだけでゾクゾクしますよ」
肩の盛り上がった素晴らしくワイルドな魚体。見た目の印象では明らかに40上かと思ったが、検寸すると38.8cm。「これで40ないのか…。」と2人、思わずため息が漏れる。
このポイントでは昨年の38.5cmから3mmの前進。
「ほんと、一歩ずつ、ですね。でも今日はサイズは関係ない。『へらが釣れた』ということにすごく価値があると思うんですよ。」

誰もが竿を出そうとすら思えないような寒さの中、しかも超浅場から1枚をひねり出した吉田。そのことが大きな希望とヒントをもたらしてくれる。
「この寒さでマブナが動き出していないことが功を奏したのかもしれませんよね。アタった時は、絶対マブナかと思いましたけど(苦笑)。それに、今日みたいに寒いくらいに陽気が落ち着いている時の方が喰うのかもしれません。ハタキでバシャバシャやっている時に喰ったのって、今までやってきてもほとんどないですからね。そう考えると、何もハタキやモジリだけが『希望』じゃないんですよね。」
「ゴーマル」への道は、やはり並大抵ではないと感じた。しかし、希望はある。印旛水系には、こんなにも素晴らしい「若い」へら鮒がちゃんと存在しているのだ。ちっぽけな釣り人は、経験を通して一歩ずつ近づいていくしかない。
突然の1枚目のあと、しばし釣り場を休め、再開する。

午後になっても気温は上がらず、そのせいかマブナやコイのアタリもない。
12時13分、空振りに天を仰ぐ。
13時1分、再び空振り。
そして、気配は途切れる。
マブナがアタってこないことに希望を見出しながら日暮れまで打つが、冷え込みもキツくなっていったせいか、再びウキが動くことはなかった。
それから約1週間後の4月6日(土)。吉田は再びこの西部調整池「眼科医院前」のポイントに入った。
この日は初回と打って変わった快晴。まだ朝は寒いが、日中は20度近くまで気温が上がる温度差の凄まじい日となった。
「勝負は朝と睨んでいます。気温が上がる日中は、さすがにもうマブナが動き出すはずですから。」
吉田の予測は的中した。
5時30分からエサを打ち始めた吉田。7時までにスレバラしが2回。一瞬、水面に踊ったのは明らかに大型のへら鮒だった。
「やっちゃった…。」
スレバラしの後、ウキは沈黙。そして10時を過ぎてジリジリと気温が上がり始めると、恐れていた状況がやってきた。

4月6日(土)、2回目の取材。早朝、狙い通りのアタリ。しかし、スレでバレる。写真、右に向かって逃げていくへらの波紋がお分りいただけるだろうか…。デカかった…。唖然とする吉田の表情が全てを物語る。

待って待っての渾身のアタリで、マブナ。そして、コイ。これまで吉田を苦しめてきた印旛の「マブナ無間地獄」が、今年も始まってしまったのだ。
結局、初回とは対照的に期待感MAXで挑んだ取材2回目は、真っ暗になるまでマブナとコイの連発に終わる。

暖かくなり、今年も始まる印旛のマブナ無間地獄。果たして、その先に待つものとは…。

さあ、ここからが本当の、印旛との根比べだ…。

〈その2につづく〉

シマノインストラクター
吉田 康雄

1976年、東京都荒川区で生まれる。
数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たしているが、記憶に残るのは99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会の準優勝と、14年に実現した同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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