へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

久しぶりの釣り。BORDERLESSで愉しむ、最高の15時間。
吉田康雄in利根川本流【前編】

やっぱり釣り場はいい…。
当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかったという事実。
この2カ月、例のコロナ禍で釣行を自粛してきた吉田康雄は、思いっきり釣りができる歓びを噛み締めていた。
釣り場はこの冬、完敗を喫していた利根川本流!
一年で最も日が長いこの時期。吉田と利根本流の“勝負”は実に15時間にも及んだ。
でも、まるでそれが一瞬であったかのように…。
最高の時間だった。

「悪いことばかりじゃない」

「こんなに感動できるなら、コロナも悪いことばかりではないですね。それに、大切なことにあらためて気付かせてくれたように思います。」
緊急事態宣言に続き、いわゆる「県またぎ」の移動自粛要請も解かれた6月20日(土)、吉田康雄は久しぶりにフィールドに出た。
利根川本流。ポイントは千葉県印西市の「木下エリア」で、待ち合わせは夜明け前の4時!記者の車が入ってくるのを確認すると、吉田はもう待ちきれないとばかりに道具を担ぎ、ポイントへと歩き出していた。
土手の上を歩く吉田のシルエットが、嬉しさを伝えてくる。
「こうして当たり前のように釣りに来られることが、実は当たり前ではなかったんですよね。これまで以上に釣り場を大切にしたいですし、自然や魚に感謝したい気持ちです。」
超が付くほどへら鮒釣りが大好きな吉田が、いったいどれほどの想いでこの2カ月間を過ごしたのか、想像に難くない。春の印旛挑戦も「さあこれから」というところで封じられ、完全に家に篭った吉田は仕事であるウキ作りに没頭しながら、本当に色々なことを考えたという。
そこで気付いたのは、当たり前のことが、実は当たり前ではなかったのだということ。釣りに行ける。ただそれだけのことがいかに凄いことなのかを、嫌というほど思い知ったのだという。
「これから先も何があるかは分かりませんが、これまで以上に釣行の1日の1分1秒を大切にしていきたいとあらためて思いました。」
朝露に濡れた雑草に足を濡らしながら300mほど歩くと、ポイントに出た。
「ここは『木下(きおろし)エリア』と呼ばれるポイントです。以前来た時に地形が気に入って。でも、まだ釣ったことはないんですけどね(苦笑)。その日は時間がなくてタナ取りゴムでこの辺りの水深をチェックして回っただけだったんですが、ちょうどここは左手にサンドバーのような浅瀬があって、流れが回り込んでくるんですよ。なので通常は右(下流)へと流れるところが、ここだけ対流で左(上流方向)に巻き込んで淀みのようになっているんです。そこに魚がたまるのか、モジリが凄かったんですよね。だからいつかじっくり攻めてみたいって思っていたポイントなんです。前回、冬にデコったところ(さらに下流の長門川河口付近)と迷ったんですが、この際、思い切ってチャレンジしてみようかなと。釣れる確証は、まったくないですけどね(笑)。でもそれが野釣りの面白さなんじゃないですか?」
周囲が明るくなり始めると、「あっ」と吉田が声を上げた。
「実はどうしても気になって昨日の夕方も見に来たんですが、昨日は出ていたテトラが完全に水没していますね。50cmほど増水している感じでしょうか。」
取材前日は、1日を通して雨。その影響か増水傾向のようで、昨日の夕方は出ていた手前のテトラは完全に水没。これがいいのか悪いのかは、神のみぞ知るといったところか。
取材当日の天気予報は晴れ。風も弱く絶好の釣り日和で、日中はかなり暑くなるようだ。しかし雨の余韻が残る朝は肌寒く、思わず上着を羽織る。
さて、釣り台をセットした吉田が出した竿は…

●竿
シマノ【ボーダレスGL Nモデル】27尺
●ミチイト
2.0号
●ハリス
上下1.0号 25―33cm
●ハリ
上下9号
●ウキ
吉田作 利根川スペシャル(パイプT45cm 5目盛 10mm 径カヤB12cm ソリッド足10cm)
●オモリ
ナス型2号(外通し)

●エサ

野釣りグルテン
1分包(40cc)
グルテンα21
60cc
120cc

※固まった後、エサ持ちが良くなるよう、しっかり指先で練り込む

現釣り方はもちろん、“漢”の外通しドボン。かなり強い流れがあるので、2号のオモリと特製の巨大なウキでガッチリ止める。
竿はもちろん、頑強な「ボーダレス」の27(尺)。長いが、利根川本流では「ヘチ狙い」と言っても差し支えないほど、まるでマッチ棒のように短く感じられる…。
4時15分、両バリにしっかりグルテンを揉み込んで、エサ打ち開始。回し振りで豪快に振り切り、水面上にトップを3目盛出してアタリを待つ。水深は約1.5mといったところだ。

どうにも待ちきれず、吉田康雄は暗いうちから釣り場に飛び出す。そして、朝焼けを眺めながらポイントまで歩くドキドキ感…。約2カ月間、きっぱりと釣りを自粛してきた吉田。この瞬間を、どれだけ恋い焦がれたことか。顔は緩み、ついつい足早に歩いてしまうこの感覚は、釣りを始めたばかりの少年の頃と何も変わっていないと思えた。

目の前に広がる利根川の大パノラマ。幸せを噛み締めながら、吉田はボーダレス 27を継ぐ。4時15分、釣り開始。雨上がりの利根川に、いったいどんなドラマが待っているのか。

この上ない生命感

「利根川の傾向としては、朝イチはあまり良くないですよね。9時過ぎくらいからが勝負だと思います。」
そんなことを話しながら、眩しい朝陽を浴びてエサを打っていく吉田。普通のオモリやウキならまるで釣りにならないであろう流れの中、斜めになってガッチリと止まったトップを凝視する。
久しぶりの釣り。最高の時間。
まずはウキを眺めているだけで最高の気分に浸りながら、のんびりと地合を待とうか…などと悠長に構えていた記者。しかし、事態は意外な展開を見せることとなった。
前日の雨と増水は、ただでさえ生命感溢れる利根川本流に、プラスアルファの何かをもたらしていたのだろうか。
「ん?今何かいましたね…。」
開始から僅か数投で、吉田の顔色が変わった。軽くイトズレのような動きが出たというのだ。
何かがいる…。
伏線はあった。
入釣時から、おびただしい数の魚達のモジリ!
巨大な魚や小さく細いマブナのモジリもたくさんあったが、中には明らかに本命と思えるモコっとした白銀のモジリも混じっていた。
さすが初夏の利根川、この上ない生命感。
開始から30分後の5時。吉田のウキを凝視していた記者の眼に、信じられない映像が飛び込んできた。
一瞬、ブルンとイトズレのような動き。今度ははっきりとわかる大きさだった。
そのまま待っていると、長いトップがスルスルとせり上がってくる。そしてついにはボディの肩が出た。
喰い上げだ!
“ビシュッ…!”
豪快なアワセに、「ボーダレス」27がゴツンと止まった。
魚だ!スレか!?へらか!?
まだ低い朝陽をバックに、悠然と竿を絞る吉田。
「コイとかレンギョではないですね。この引きは、もしかして…。」
沖へと走る、コンコンと小気味良い覚えのある引き味。
「よし!へらだ!」
沖目で浮いた銀色の魚に、思わず吉田が叫ぶ。やや小ぶりだが、いきなりの「本命」だったのだ!
慎重にタモまで導く…。
「うおぉ~、やった!嬉しい!」
歓びを爆発させる吉田。その手には大切そうに、銀色の尺べらが輝いていた。
そうは言っても利根川本流である。試釣も情報もない。返り討ちのオデコも覚悟のうえでの一発勝負だったが、まさかまさかの「早々の1枚」だった。
きっと自粛を頑張った(?)吉田への、天からの粋なプレゼントだったのかもしれない――――――。
この上ない生命感は、まだまだ続いた。
吉田の竿を連続で曲げるのは、20cm前後のマブナ達。やっかいなアメリカナマズやコイではないことが、さらなる期待感を煽った。
「利根川でこんなに朝からへらが釣れたのは初めてです。ホント、野釣りってやってみないと分からないですよね。」
6時40分、2枚目が来る、やはり白銀の尺級。そして早くも暑くなり始めた8時45分、33cmがやってくる。

いきなり、銀鱗、踊る。吉田本人が一番驚いた、開始30分でのヒット。豪快な喰い上げに乗ったのは、世にも美しい白銀の美べらだった。我慢を重ねた釣り人への、天からのご褒美だったのか…。

吉田が迷わず選んだ竿は、「ボーダレス 」の27(尺)。先進的なデザインをその身にまとった硬式ロッドで、その名のとおり、幅広いフィールドや魚種、釣り方に対応するボーダレスロッドだ。そのデザインが気に入れば野釣りだけでなく管理釣り場でも頼もしい相棒となるが、本流の釣りなどはまさに得意分野。レンギョ等の本流の巨大魚が掛かってしまっても安心の屈強さが光る!

常時左への強い流れが生じているので、釣り方は2号外通しオモリを使用したドボン。ウキもスペシャルなロングタイプでガッチリ止める。エサは両グルテンをしっかり練り込んで仕上げた。

シマノフィールドテスター
吉田 康雄

1976年、東京都荒川区で生まれる。
数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たしているが、記憶に残るのは99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会の準優勝と、14年に実現した同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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