へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

超深宙×豊英湖
西田一知がいざなう、深淵なる超長竿の世界【前編】

西田 一知の代名詞といえば、やはり「超長竿」。
名門釣り会で数々の実績を残してきた超長竿による速攻の底釣りや深宙は、西田ならではのキレ味。そして、超深場から野べらを抜き上げてくる釣り味は、唯一無二。
「今日は久しぶりの豊英湖です。深場の釣りを愉しみたいですね」
歴史と伝統の重みを感じさせる房総の雄、豊英湖(とよふさこ)。
下流の三島湖と並び称される名門中の名門釣り場は、春の乗込みシーズンを目前に、巣離れを終えた深場の良型達が活発に動き出していた。
名手・西田 一知、「超深宙」で存分に魅せる。

「巣離れ」の豊英湖

「もう巣離れが始まって、浅場でもポツポツ釣れ始めていますよね。今日は深場でやりますが、どんな釣りになるか愉しみですよ。」
真冬の釣りから春の浅場の釣りへと移行し始める、まさにそんな時。
それにしても、先達が残した「巣離れ」という言葉、初春のへら鮒達の様子を生き生きと伝えてくる、何とも素晴らしい言葉ではないか。
3月9日(月)。久しぶりに房総の雄・豊英(とよふさ)湖を訪れた西田 一知。今日は超長竿での釣りを存分に堪能する腹づもりだ。
「放流物が居着いていて安定しているのは『川又』か『タツボ』あたりですね。釣り方は超長竿での深宙バラグルセットで、釣れている日で30枚前後。今日もそのあたりを目標にしてみましょうか。」
6時30分、ボートを漕ぎ出す。
顔に当たるのは森の冷気と、霧雨。予報では平地は曇りだが、どうやら山は 1日雨のようだ。しかし気温はそれほど低くはなく、朝で10℃以上ある。
しっとりと暖かい初春の霧雨が、湖を包み込む。
スルスルと手慣れた手つきでボートを漕ぎ進めた西田。赤い橋をくぐるとすぐに左折し、15mほど漕いだ先の左岸にボートを岸付けする。舟付けしやすいよう岸から竹が伸びていて、そこに舳先をくくり、左右の枝からロープを引っ張って固定する方式だ。
ボートを固定し終えると、西田はまず水を吸わせるためにエサを仕上げ、その後でタックルの準備に入る。このあたりもまた、例会で叩き上げてきた西田らしいルーチンだ。

●竿
シマノ【飛天弓 閃光L】27尺
●ミチイト
1.0号
●ハリス
上0.5号 下0.4号 25―65cm
●ハリ
上【バラサ】8号 下【セッサ】3号
●ウキ
パイプT2 1cm 羽根B 16.5cm 竹足6cm ※エサ落ち目盛は全 11目盛中、3目盛沈め

●バラケ

グルバラ
200cc
300cc
段差バラケ
200cc
200cc
バラケマッハ
200cc
凄麩
200cc
セットアップ
100cc

●クワセ

凄グル
30cc
わたグル
30cc
70cc

飛天弓 閃光L」を使用した超深場の釣り。しかし、そのタックル&エサを見ると、意外とオーソドックスであることがわかる。
「超長竿になるととたんにウキやハリといったタックルがゴツくなったりする人がいますが、案外普通でいいんですよね。例えばみなさん、野釣りだと21尺くらいまでならよくやると思いますが、基本的にはそれと同じでいいんです。少しウキを大きくしてあげるくらいですね。ただそれもまた、大きくし過ぎないことも肝要です。ようは超深宙だからと『構え過ぎない』ことが大切なんですよ。」
特に両ダンゴの超速攻の深宙では人よりもかなり小さめのパイプトップのウキをチョイスすることでも知られる西田。そこに硬めの小エサを組み合わせてあえてピンポン状態を作り出すことで、ウキが立った直後から十二分にウケを出させ、超速攻で仕留める…という釣りがトレードマークになっている。ウキが小さい分、ハリスは短めでバランスを整えていくのも西田流だろう。
今回はバラケ&グルテンということで、両ダンゴと違って「ウケてチャッ!」という釣りではなく、バラケをしっかりもたせた上でのタナを意識した釣りとなる。
「バラグルの場合、まずはバラケのナジミ幅をしっかり出すのが大前提となります。そのうえで、下ハリスのグルテンが張り切るまでの勝負ですね。なので、両ダンゴの時よりウキは大きめになります。バラケはそれほど大きくはしませんが、しっかりとチモトに圧をかけて、先端 1目盛残しまでどっぷりナジむところから入っていきます。そこで割れ落ちさせたくないので、『グルバラ』を先に水に溶いて作るんですよね。『段差バラケ』の芯のあるネバボソ感も効いています。」
27尺いっぱいの深宙というと思わず特殊な釣りと身構えてしまうが、もはやそうではないと西田は言う。
「心理的に以前と違うのは、道具の進化も大きいですよね。特に竿の進化はひと昔前とは雲泥の差です。今日も使っている『閃光L』などは、片手で振って片手でアワせて…という『普通の釣り』ができる超ロングロッド。良型が掛かってタメる時に(握りのうえに)左手を軽く添えるくらいですよね。気持ち的には2 1尺や24尺とさほど変わらない感覚で使えるんですから、これは凄いこと。そんな心理的な変化が、他のタックルやエサにも『平常心』をもたらしてくれるんです。」
確かにひと昔前なら27尺いっぱいの深宙といえば、特殊な釣りどころか、どこかキワモノ的な匂いさえした。それが今や「普通」になってしまったのだから、技術の進化というのは凄い。
また「飛天弓 閃光L」の凄いところは、ただ軽いだけではないという点に尽きる。竿を軽く作るだけなら、細く薄くすればいい。しかしそれでは継いだ時にベロンと垂れ下がり、竿として機能しない「ただ軽いだけ」という代物が出来上がってしまう。そんな矛盾を鮮やかに解決したのが、シマノ独自の基本構造「スパイラルX」。三層構造の内層と外層のカーボンテープをクロスさせることにより、高いネジリ剛性とツブレ剛性を獲得。軽さと強さの両立に成功したのだ。
「これだけ軽いのにしっかりとした張り感があり、とにかく使いやすい竿。素材や技術の進化に加え、調子等には長年にわたる閃光シリーズのノウハウの積み重ねが効いていますよね。」

6時30分、出舟時刻を知らせる合図とともに舟着場を離れる西田。向かったポイントは「川又」で、カーブを左に曲がった先の左岸。深場を擁する豊英湖屈指の名ポイントで、27尺いっぱいのバラケ&グルテンをチョイスした。竿はもちろん「飛天弓 閃光L」の27尺。「L(ライト)」と「P(パワー)」の2系統に分離した閃光シリーズだが、「超長竿」ということで軽量タイプの「L」が今回の相棒だ。取材時点で釣れていたのは西田が入った「川又」と「タツボ」。両ポイントともドン深の宙釣りポイントで、そういう意味ではまだ冬を意識した付き場だ。しかし、上流の「大橋」方面等の浅場でも釣れ始めており、まさに冬から春へと推移していくその時に訪れた格好となった。

小ぶりなウキがトレードマークの西田にとっては若干、大きめのチョイスだったが、これは竿が長いからではなく、「釣り方」の違い。バラケをタナでしっかりと持たせていくバラグルでは、よりタナを意識した大きめのウキが釣果につながるのだ。バラケは「グルバラ」をベースにし、芯のあるネバボソに仕上がる「段差バラケ」が効いたコシのあるボソタッチ。これをしっかりと深ナジミさせていく。そこからの下バリの倒れ込み間の勝負で、アタリ自体は下ハリスが張り切るまでを狙うから、速い釣りとなる。

へら、動く!

事前の釣果情報と当日の天候から、のんびりとした釣りを想像していた筆者。しかしそんな安易な予想は見事に覆された。
「うん、思ったより魚は動いていますね。」
鮮やかな落とし込みで打っていく西田が、開始早々、手応えを口にした。
7時にエサ打ちを開始し、15分後には早くもサワリ。変わらず先端 1目盛残しまでしっかりと深ナジミを続けていくと、そんなナジんだトップが返りしなに「フワフワっ、チャッ!」と小さく落とした。
やってきたのは白銀に輝く9寸級の放流べら。思った以上に早い滑り出しに、思わず表情がほころぶ。
それにしても、鮮やかな西田の竿さばきよ…。
いくら竿自体が超軽量かつ超高性能とはいえ、そこは27尺である。力の抜けた振り込みから、片手での鋭いアワせ、そしてよどみのないスムーズな所作による取り込み――――――。
見ているだけで惚れ惚れするような「超長竿の世界」が、深淵なる森の中で静かに始まっていた。
「長竿を振る時のコツは『脱力』ですよね。肩に力を入れてはダメです。竿の性能を信じて、ダラ~とした感じで送り込み、取り込むんですよ(笑)」
確かに、一連の西田の所作によけいな「力」は微塵も感じられない。27尺というと腕力にモノを言わせて振り回しているようなイメージもつきまとってしまうが、実際は逆。西田が表現してくれたように、「ダラ~」とした感じで脱力した状態でエサを振り込み、魚を取り込む。唯一力を感じられるのは鋭いアワセの瞬間のみなのだ。
アタリは続く。元気な放流物の小さく鋭いアタリに、次々と竿が曲がる。

霧雨舞う中、見事な釣りが始まる。

静かな霧雨の森の中で、ゆったりと 「飛天弓 閃光L」27尺を振る西田。その所作には「力み」がまったく感じられない。竿の性能を信じ、委ね、全ての動作で「脱力」を意識することが超長竿を使う時のコツとなると、西田は力説する。「力感」を感じられるのはズバっと決まる片手でのアワセの時のみで、振り込みから取り込みまで、いい感じで「脱力」された動作が竿の全性能を引き出すのだ。

釣れ始まった綺麗な放流べらに、西田も思わず表情がほころぶ。このへら達が活発にウキを動かし、また、地べら化した良型の喰いを刺激する。そしてまさに当日は、そんな釣りが展開されていくのである。

西田 一知
シマノインストラクター
西田 一知

1969年生まれ、東京都在住。
関東へら鮒釣り研究会で97年、09年、10年、11年に年間優勝して史上5人目の横綱位に就く。09年シマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 第3位。30尺の使い手で長尺の釣技に長ける。「関東へら鮒釣り研究会」「コンテンポラリー・リーダーズ」所属、「KWC」会長。

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