へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

“特作 伊吹”
〜梅雨の道満河岸、しっとりと底釣りで遊ぶ〜【後編】

梅雨。しっとりと濡れた風情は、日本の四季ならでは。落ち着いた心情でへら鮒釣りと対峙するには、またとない季節だ。
名手・中澤 岳がやってきたのは、道満河岸へら鮒つり場。身近な釣り場で、味わいのある底釣りを愉しむ。
その右手には、しなやかに優しく曲がる「特作 伊吹」。
そこには、勝負の緊張感や山上湖のダイナミズムはない。
しかし、ゆったりと流れる“極上の時間”があった。

前編記事はこちら

ジタバタしたくなる。

9時、ここまでの釣果は7枚。へらのアタリはジワジワと増えてはきていたが、何枚か釣るとジャミ、というサイクルは変わらない。
やはり今日はジタバタしてはいけないのか。でも、ジタバタしたくなるのがへら鮒釣りの厄介なところ。まして人一倍探究心が強い中澤のことである。「さらに上」がないか、試行錯誤はすでに始まっていた。
まず着目したのがエサ。少し強過ぎる(重過ぎる)のではないかと考えた中澤は、最初のブレンドに「ダンゴの底釣り冬」を1杯(50cc)加え、水を100ccに増やす。やや比重を軽く、エサ持ちを良くした形だ。
しかし、これは見事に不発だった。
ジャミがいる間はジャミにつかまる確率が高まり、へらがやってきた時はスレが増える。
「明らかに最初のエサの方が、へらが寄ってきた時にガツっと釣り込めたよね。エサをちょっと変えただけでこんなに違うんだから、底釣りってやっぱり面白いなぁ」
ズラシ幅も色々と試してみる。そして、結局は最初のうえバリトントンに。

ズラし気味にすると、ここぞというところでのイトズレが増え、結果的には釣り込めないのだ。
「釣れ具合にすると、エサは重め、タナは軽め(浅め)にしとくのがいいね。渋いというよりは、チャンスで確実にとりこぼしなく拾えるようにしておく、という感じかな。
エサのタッチも面白くて、ある程度は硬くないとカラツンも出ないんだけど、軟らかくないとやっぱり喰わない。かといって軟らかくし過ぎるとジャミにやられて持たないから、そのあたりのギリギリの線を見極めていくのがまた、けっこう面白かったりするよね」
梅雨空の下、真剣な表情で道満の底釣りと向き合う。
長い長いキャリアを経て、今、どんな状況も「愉しむ」というスタンスで釣りと向き合っているという中澤。
管理釣り場での尖った釣りも、野釣りで1枚を追いかける釣りも、そして今日のように身近な釣り場でのジャミ混じりでの底釣りも…。
与えられた条件下で、「ジタバタする」のが、若き日から決して変わらない「中澤 岳らしさ」なのかもしれない。

腰を据え、底釣りを愉しむ。

3枚ほどパタパタと釣ると、再びジャミの弱い動きに戻る…。
そんなペースで釣りを展開していった中澤。このループから抜け出す手はないかと色々と試すのだが、今ひとつ決め手に欠ける。やはり今日は「ジタバタしてはいけない」のだろうか。
ハリを5号に落としてみるも、やはり状況は変わらず。午後になってもポツポツのペースから抜け出せない。
ただ、その状況と「伊吹」のマッチングには、中澤も思わず笑顔を見せる。
「いいよね。まさに竹竿感覚でのんびり愉しむには最高の釣り場だし、底釣りというのもいい。へらの型も9寸主体でちょうどいいしね。バクバクにはならないけど、その分、釣れた時の嬉しさも大きい。こんな釣り場は『伊吹』みたいな味わいのある竿でじっくりと愉しみたいよね。ある意味、とても贅沢な釣りだと思う」

相変わらず変化のない釣況。こうなるとまた、中澤の「飽くなき好奇心」が頭をもたげてくる。
13時、20枚を釣ったところで中澤が大きな変更に出る。ウキを10番から7番にサイズダウンしたのだ。

換えた直後、深くナジんだところで「タッ!」と落とすアタリが連続し、バタバタと3連続で絞った。中澤も思わず「これだったか!?」と口走るが、しかし、その後は元のペースに戻る。

それなら、と、今度はさらに小さい浅ダナ用のボディ6cmのウキにチェンジする。しかし、ウキが立つまでの時間が長くなっただけで、状況は不思議なほど変わらず…。
ならばペレット系のエサはどうか?と、「ペレ底」100cc、「ペレ軽」200cc、水100cc、というエサを作る。しかし、変わらず。

梅雨時、しかも浅めの底釣りということで、ウワズリに備え、やや大きめのウキと重めの小エサで入った中澤。タナは上バリトントン。エサ落ち目盛を付け根に取るのが中澤流で、他ならぬ「返し」を重視しているため。これで魚が寄って落ち着かせたい時はオモリを足し、エサ落ち目盛を沈めていくという。

「ジャミをかわしながらの底釣りはすごく愉しかったし、他ではなかなか味わえないよね。『特作 伊吹』という竿のチョイスも、このシチュエーションでは凄く面白かった。ただ、本音を言えばもう少し『釣れる何か』を見つけ出したかったな。浅ダナで使うような軽いダンゴも試してみるべきだったね。また道満に来たくなったなぁ」
15時30分、30枚目を釣ったところで、中澤は釣りを終えた。

貴重なアタリを確実にものにしていく中澤。こんな時の相棒は、しなやかな軟調子がいい。『特作 伊吹』はへらの引きに優しく追随してバラしを軽減させるだけでなく、理屈抜きで「愉しい」と感じられる贅沢な釣り味を提供してくれる。

竿を仕舞う中澤の表情は、満足げでもあり、納得いかないふうでもあった。いつでも謙虚に釣り場と向き合い、状況を受け入れながらも、全力を尽くす。それこそが「中澤 岳」というアングラーなのであろう。

ラストは浅ダナ用の小ウキやペレット系のエサまで試した中澤だったが、突破口には至らず、ペースアップとはいかなかった。しかし、味わいのある底釣りに、飽くなき好奇心を掻き立てられた充実の1日となった。

シマノインストラクター
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

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