へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

“特作 伊吹”
〜梅雨の道満河岸、しっとりと底釣りで遊ぶ〜【前編】

梅雨。しっとりと濡れた風情は、日本の四季ならでは。落ち着いた心情でへら鮒釣りと対峙するには、またとない季節だ。
名手・中澤 岳がやってきたのは、道満河岸へら鮒つり場。身近な釣り場で、味わいのある底釣りを愉しむ。
その右手には、しなやかに優しく曲がる「特作 伊吹」。
そこには、勝負の緊張感や山上湖のダイナミズムはない。
しかし、ゆったりと流れる“極上の時間”があった。

唯一無二、「特作 伊吹」。

「たまにふらっと来て、竿を出す。そんな釣り場かな。しっかりと管理されて環境は抜群だし、手頃な水深と魚影で、浅ダナや底釣りが面白いよね。今回はちょっと間が空いて2年振りくらい。久しぶりなんで、すごく愉しみにして来たんだ。ほら、この竹林も相変わらず見事だよね」
駐車場からキャリーバッグを引き、まるで京都を思わせるような見事な竹林を抜けると、釣り場の受付が現れる。この「竹林のトンネル」を歩く間に、日常から非日常へとスイッチが切り替わる。そんな演出もまた、名手・中澤 岳を惹きつけているようだ。
埼玉県戸田市の「彩湖」を中心に広がる「彩湖・道満グリーンパーク」の一角に、歴史あるへら鮒のつり場がある。それが今回、中澤が釣行した「道満河岸(どうまんがし)へら鮒釣り場」だ。荒川旧川の一部を利用した、いわゆる「凖・管理釣り場」的な装い。ガッチリとした木製の桟橋が整備され、魚影も濃く、平日も多くの釣り人で賑わっている。中澤が訪れた7月9日(火)も、早朝から続々と釣り人達がやってきて、思い思いのポイントに散っていく。

根強い人気を誇る埼玉県戸田市「道満河岸へら鮒つり場」。緑に囲まれた好環境、豊富な魚影、手頃な水深…と人気の秘訣が揃った名釣り場である。駐車場から釣り場の受付までは見事な竹林に囲まれた小道を歩くが、この雰囲気がまた絶品。日常から非日常へと心のスイッチが自然と切り替わる。
釣り場自体も広く、駐車場からこの小道を抜け、さらに狙ったポイントまでは結構な距離を歩くことになる。かといって、こだわりのへら師なら極力タックルやエサを減らしたくはないもの。そんな時はキャリー付きのバッグが非常に便利。中澤 岳も、この春、シマノから登場した「へらキャリーバッグXT」で楽々とたくさんの荷物を釣り座まで持ち込んでいた。

「凄い人気だね。これだけ環境が良くて、手軽で、首都圏からも近く、何よりよく釣れる。水深が手頃で、短めの竿で底釣りを愉しめるのも人気の秘訣だろうね」
平日にもかかわらずたくさんの釣り人達で溢れる釣り場に目を細めながら、中澤は中桟橋のほぼ中央、沖(東)向きに釣り座を構える。
たくさん釣るなら浅ダナ。しかし、中澤は迷わず「今日は底釣り一本でいこうかな」と言いながら、ロッドケースから「特作 伊吹」を引き抜いた。

「戸田市水と緑の公社」によってしっかりと管理&運営される道満河岸。中澤が入ったのは安定して釣れているという中桟橋中央付近、東向き。水深は約1.5m前後で、中澤はあえて底釣りをチョイスした。

●竿
シマノ【特作 伊吹】9尺
●ミチイト
1号
●ハリス
上下0.5号 27―30cm
●ハリ
上下オーナー【リグル】6号
●ウキ
パイプトップ15cm 羽根ボディ10cm カーボン足6cm

エサ落ち目盛は、全9目盛中、付け根

●エサ

ダンゴの底釣り夏
55cc
カルネバ
200cc
ペレ底
55cc
50cc

中澤が継いだのは、「特作 伊吹」9尺。シマノのへら竿ラインナップの中でも最も軟らかい部類に位置する竿だ。全身がカーボンでありながら、まるで純正竹の和竿を振っているかのような錯覚に陥る異色の竿。特に短竿はその味わいが強いと、中澤は言う。

バランサーによってあえて持ち重り感を出し、カーボンロッド独特の軽薄な感触を抑え、まるで和竿のような実釣感を実現させた「しなり調律」を採用した名作「特作 一天」。その「一天」のノウハウを一歩も二歩も前進させ、後付けバランサーから来る違和感を無くすためにバランサーの役割を果たすカーボンシートをブランクス自体に組み込んだ「しなり調律2」を採用したのが、この「特作 伊吹」だ。また現代の釣りによりマッチさせるべく、ただ魚に遊ばれるだけではない、奥底からじわりと溢れるようなトルク感も「伊吹」の特徴。小場所から最前線の大型管理釣り場まで、幅広くチョイスできる「名作・一天を超えた超・名作」となっている。

「カーボンらしからぬズッシリとしなやかな感触があるよね。11尺以上は持ち重り感を軽減させるためにやや先に抜ける感触が強くなるけど、10尺以下はもうガッツリと竹竿の感触を愉しめる。竿全体の作りもそうなんだけど、やっぱり特徴的なのは穂先かな。ここまで太くて軟らかいチューブラー穂先は、カーボンロッドでは唯一無二だと思う。その感触を一度でも味わっちゃうと、定期的に無性に振りたくなっちゃうんだよね(苦笑)」

特作 伊吹」の独特の調子を生み出しているのが、この太く軟らかいチューブラー穂先。まるで竹竿の削り穂のような感触をカーボンロッドで見事に表現している。10尺までの短竿はこのズッシリとした竹竿ライクな感触を強く打ち出し、11尺から16尺までの長い尺数は持ち重り感が行き過ぎないよう、絶妙なスッキリ感を感じられるように配慮されているのも玄人好み。歴史に残る名竿だ。

軽い仕掛けを操作しやすい振込性能や、ラインブレイクを防ぐ懐の深さから、スピーディーで繊細な浅ダナの釣りにもマッチする「伊吹」。しかし、1枚とのやり取りを存分に楽しむような釣りにもやはり最高で、そういう意味でも今回の道満河岸はベストな釣り場だろう。そして、中澤が選んだのは底釣り。水深は全体的に約1.5mほどと浅めで、まさに軟調子の竿で底釣りを愉しむにはうってつけの釣り場なのだ。

こういった短竿で底釣りを愉しめる釣り場は、意外と貴重。中澤が出した竿は「特作 伊吹」の9尺。しなやかな「伊吹」で短竿の底釣りをじっくりと愉しむ構えだ。「1枚でも多く…」というのもへら鮒釣りの面白さではあるが、釣果にこだわらず、「1枚を愉しむ」というのもまたへら鮒釣りの魅力。「あえて軟調子+底釣り」というのはある意味、盛期にこそ味わえる最高の贅沢なのかもしれない。

「久しぶりで状況が分からないから、まずは標準的な底釣りから入ってみるね」
7時、エサ打ちを開始する。ウキ下1.5mの底釣りは、側から見ると浅ダナ釣りの様相。きっちりと落とし込めるしなやかな竿がまた、釣趣をかきたてる。

梅雨時、しかも浅めの底釣りということで、ウワズリに備え、やや大きめのウキと重めの小エサで入った中澤。タナは上バリトントン。エサ落ち目盛を付け根に取るのが中澤流で、他ならぬ「返し」を重視しているため。これで魚が寄って落ち着かせたい時はオモリを足し、エサ落ち目盛を沈めていくという。

周囲を竹林に囲まれ、背後の張り出した森の下では静かにタナゴ釣りを楽しむ人達の姿が。南側にある金魚釣り場も朝から大盛況だ。
梅雨時の静かな風情と活気が同居する中、淡々とエサを打つ。すぐに出たジャミアタリと遊んでいると、しだいにウキの動きが静かになってきた。
へらが来た。

時折パラっと小雨が舞う、梅雨時ならではの空。気温も低く、もう7月も半ばに差し掛かろうというのに18度しかない。レインウェアを羽織っていなければ「寒い」と感じてしまうほどの肌寒さだ。
しかし、気の持ち様とはよく言ったもので、今日のような落ち着いた底釣りを愉しむには、実は最高のシチュエーションなのかもしれない。
「悪くないよね。浅ダナでガンガン釣るテンションならまだしも、今みたいに落ち着いた底釣りを愉しむには、むしろうってつけの天候なんじゃないかな。そして、この梅雨があるからまた、カラっと晴れた夏が愉しいんだろうね」
へら鮒釣りの酸いも甘いも味わってきた中澤。速攻の浅ダナではなく、豪快な湖の釣りでもない。しかし、その表情はどこまでも愉しそうだ。
「ほら、だいぶジャミが静かになってきたよ。そろそろかな」
タナゴやクチボソが賑やかにウキを動かしていたが、30分ほど経った頃、そんなジャミの軽い動きが弱まり、ハリ掛かりもしなくなってきた。
そろそろか。
しっかりと多めの5目盛がナジんだトップが、返しを待たずに「タッ!」と2目盛、強く落とす。
「うん、これはへらだね」
大きくしなる「伊吹」。
その独特な引き味をじっくりと愉しんだ後、優しく水面に浮上したのは綺麗な9寸のへら鮒だった。
「いたね。そんなに大きくはないけど、綺麗なへらだなぁ。このへらが釣れるなら申し分ないよ」
1枚釣った後、再びジャミの動き。
それをやり過ごしていると、またウキの動きが重々しくなり、はっきりと落として、へら。
決してイレパクではないし、「いいペース」とも言えないが、途切れず、コンスタントにアタリを出していく。
「こんなペースもまた、時には心地いいね。それに今日はジャミがまたいいアクセントになっていて、緩いながらも釣りにメリハリとリズムをもたらしてくれている。嫌いじゃないね、こういう釣りも」

梅雨時のしっとりとした独特の雰囲気の中、底釣りを愉しむ中澤。釣れてくるへら鮒は元気な9寸から尺級の綺麗なへら鮒で、ジャミをかわしながらの味わい深い釣りとなった。

気が付けば広い釣り場には万遍なく釣り人の姿が。またタナゴ釣りも人気のようで、背後の巨木の下にはタナゴ釣りの方達も続々とやってきていた。
「あの釣りも奥が深そうだなぁ」
興味深そうにタナゴ釣りの方達を眺めつつ、中澤は自身の味わい深い底釣りにますます没頭していく。
「面白いんだよね。底釣りっぽい『返してツン』が少なくて、釣れる時は案外アタリが早い。ナジんでタッ!って感じで。で、別にウワズる気配もない。そこで宙釣りっぽい底釣りにしたらもっと釣れそうなんだけど、意外とダメ(苦笑)。ジタバタしないで腰を据えて、寄ってきたら早いアタリで何枚か釣り、またジャミアタリを愉しんで、という感じ。周囲を見ても、宙も底も飛び抜けて釣っている人っていないでしょ? でもそれがまた、ここ道満河岸の人気の秘密なのかもしれないね」

シマノインストラクター
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

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