へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

「獅子吼」で釣りたい、
精進湖・赤池の良型
常に真摯たる名手が、
ヤマの良型と向き合う。
中澤 岳 in 精進湖・赤池【後編】

どんなに年齢を重ねても、へら鮒釣りに対して謙虚に、そして真摯に向き合い続ける本物の名手・中澤 岳。
最高の竿、「普天元 獅子吼」誕生を機に、「獅子吼で釣ってみたい釣り場は?」との筆者の問いに、中澤は穏やかな口調でこう答えた。
「実はこないだね、例会でまったくダメだった釣り場があって(苦笑)。すごく悔しいし、そしてロケーションもへらも最高だから、もう一回チャレンジしてみたいんだよね。いいかな?」
その釣り場とは、精進湖・赤池エリア。
今年は例年以上に型が良く、よく釣れている一方、一歩釣り方を間違えれば貧果に終わってしまうこともあるという。
普天元 獅子吼」を手に再び挑戦する、チョーチン両ダンゴ。
そこには「最高の夏の釣り」が待っていた――――――。

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割り切って、攻め抜く

それにしても、まあ何とも中澤らしい割りきった釣りである。
使える目盛は頭3目盛のみ。しかもトップは浮力のあるパイプではなく、PCムクトップだ。「テーパーがゆるいので、PCにしてはけっこうエサを抱えてくれるんだよ」と中澤は言うが、それでも、少し寄りがアマくてウケが弱かったりすると容赦なく沈没してしまう。しかし中澤はそれを逆手に取り、強制的に高速回転を維持して、薄くなりがちな良型の寄りをキープしていくのだ。
中澤は1ボウルをおよそ1時間程度で打ち切ってしまう。そして、「ニュートラルな性質の『コウテン』の量で、エサの軟らかさを調整していくといいんだ」と、2ボウル目からは、ブレンドの中の「コウテン」を100ccから150ccへと変更する。つまりは、エサのタッチを少し硬めにし、良型のアタックに負けないように仕向ける。
この小変更が、ズバリ、ハマった。
型がいいだけに「怒涛のイレパク」とまではいかないが、明らかに強いアタリが増え、アワせる回数が増えていく。アワせる回数が増えればエサ打ち回転数も自ずと上がり、へらの寄りもキープされ、どんどんいいアタリが連発する好循環となるのだ。
「よく考えてみたら、これって野釣りの基本の攻め方だよね。それが前回来た時はすっかり忘れていて…。へら鮒釣りって、本当に失敗と反省の連続だよね。」
最高のコンディションの下、次々と良型を釣り上げていく中澤。アタリは明快そのもので、肩付近で軽くウケが出た後、ジワリとナジみながら、先端3目盛に差し掛かったところで「ダンッ!」と明確に落とすのだ。逆にこのアタリが出なければ、いっさい待つことなく打ち返していく。その釣りの「速さ」をご想像いただけるだろうか。
「今日はハリスもハリも決め打ち。いじってもいいんだけど、前回の反省から、今日は変更禁止にしたんだ(笑)。このまま打ち切っていくよ。エサもチョコチョコいじったりしないで、『コウテン』の量で硬さを調整するだけで、あえて作ったままをどんどん打ち切っていく。」
10時、カウントは30を超える。全て尺二寸級の見事な良型ばかりで、申し分のない釣りである。
「気持ちいいよね。数釣りで、アタリも落ち込みでガンガン刻んでくる精進湖もいいけど、これだけの型揃いっていうのも面白いよね。釣り人ってほんと、現金だよね(苦笑)。」
目の回るようなエサ打ちのペースの中で、時折出る明快なアタリを確実にとらえていく中澤。2、3枚釣るといったんはアタリを失うが、あえて何も変えずにそのまま打ち切っていく。すると再びウキが動き始め、自然にアタリが戻ってくるのだ。前回来た時は、中途半端に動き続けるウキに、この「割り切り」が出来なかったのだという。
「何十年もへら鮒釣りをやっていて、頭では分かっているはずなのに、いまだに失敗ばっかり繰り返している。ほんと、情けないね。でも、だからこそやめられないのかな。」
透明感溢れる景色の中で、透明感溢れる中澤の釣りが続く。
残念ながら富士山は朝の一時だけで雲に隠れてしまったが、今日はもう雨の心配はいらないだろう。

「獅子吼」、12尺とは思えない重厚感

12時頃、あかいけマスターがお弁当を届けに来てくださる。そしてそのいつもながらの豪華さに、驚く。
「贅沢だよね。舟の上でこんなに美味しいお弁当をいただけるんだから!朝もあんなに早い時間から美味しい朝食が食べられるし。これを当たり前と思っちゃいけないよね。」
中澤はそう言いながら、しばしあかいけ特製弁当に舌鼓を打った。
「中澤さん、今日は大丈夫そうだね!(笑)」
その様子を見ながら、マスターが意地悪く向ける(笑)。頭を掻く中澤。お弁当を食べ終えた後も、中澤の竿は順調に曲がり続けた。
しかし、ほどなくして地合に変化が。
「ちょっとタナが高くなってきたかな。」
右からの風が強くなり始めると、中澤のウキから強いアタリが明らかに減った。
流れ?
「いや、へらのタナが上がった感じだね。ここは無理せず竿を短くするのがいいかも。型がいいだけに、強引な釣りは絶対ダメだよね。」
中澤はそう言うと、早い判断で15尺を仕舞い、12尺を継いだ(仕掛け、エサは全て同じ)。するとどうだろう。15分ほどのエサ打ちで見事にアタリが復活し、またリズミカルに釣れ始まったのだ。
「うん、いいね。ダメだったらもっと長くしようかなって思ってたんだけど、短くして正解だね。ほら、型もさらに良くなったよ。」
時間帯的なものか、はたまた風がへらに活性を与えてタナが上がったのか…。15尺から12尺へと短くすると、明らかにアタリが戻ってきたのだ。
それにしても、その12尺の、12尺とは思えない重厚さよ!
「だよね。竿を短くしたのに、軽薄な感じが全くしない。これって地味に凄いことだよね。竿全体のバランスもそうなんだけど、きっと穂先の違いも効いているよね。」
新しい「普天元 獅子吼」では、7~9尺ではしっとりとした重みが出る無垢穂先、15尺以上では軽快感が出るチューブラー穂先、そしてその中間の10.5~13.5尺では半無垢穂先を、全て新設計で採用している。そしてこの12尺に採用されている半無垢穂先はシマノ独自の技術であり、チューブラーとムクの良さを共存させた穂先であるが、長尺から持ち替えた時に竿の軽快感が勝ち過ぎないよう、「獅子吼」のためにきっちり調律してあるのだ。
「こういったヤマの釣りって、やっぱり長竿を大きく曲げて愉しみたいよね。でも地合的にそれを許してくれないことも、当然ある。時には短竿の浅ダナでしか釣れないことだってあるから。でもそういう時も、『獅子吼』ならガッカリせずに、長竿と同じように釣り味を愉しむことができる。そういう設計になっているんだよね。やっぱり『獅子吼』って、凄い竿だと思う。」
筆者はどうにも我慢出来ずに、写真撮影を中断して、中澤のボートに近付き、横付けする。そして中澤が魚を掛けた竿を強奪!
予想通り、何という重厚感、そして、何というふくよかな感触だろう…。
エサの振り込み、そしてアワせた時の感触も確かめさせていただいたが、これがまた何とも表現しようのない、まろやかで優しく、それでいて芯の強さを感じさせる極上の釣り味なのだ。
「ね、いい竿でしょ(笑)。」
そう言ってニッコリ微笑んだ中澤は筆者から竿を取り返すと、また素晴らしいペースで釣り始めた。
最高の竿に、中澤の釣りもますますノっていく。
ついには左への流れが付き始めると、竿先でウキを支えておいて、ここぞというところフっとテンションを抜いて「チャッ!」とアタらせるテクニックを披露。これがことごとく決まり、黒光りした溶岩地帯の良型が次々と顔を出す。
そして14時、カウントが50に達したところで、さらに流れが強まったのを機に納竿となった。

「いやぁ、今日は打ち切ったね(笑)。あえて細かいことは考えず、とにかく打ち切ったのがよかったのかな。でもね、今日はたまたまこれで釣れたけど、ダメな時もある。へら鮒釣りって、本当に果てしないよね。」

今日の釣りの余韻を噛みしめるようにゆっくりとボートを漕ぎ、舟着き場に戻ってきた中澤。カメラを向けると、少しはにかんだような、そしてやりきった充実感に溢れたような、何とも言えない穏やかな表情がとても印象的だった。

タナの上昇を察知し、15尺から12尺にチェンジ。さらなるペースアップに成功する。そして、短くなっても微塵も失われない竿の重厚感は、どうだ!

タナがピタリと合うと、それに呼応するかのように型もさらに良くなる。溶岩地帯の素晴らしい良型に、中澤の表情も思わず緩む。

「今日は大丈夫そうだね(笑)」と、昼食を届けに来たあかいけマスターも安心顔!?それにしても、こんなに素晴らしい心づくしのお弁当を舟上で食べられる贅沢…。これを当たり前だと思わず、常に感謝の念を忘れないようにしたい。そう、中澤のように…。

充実の釣りを終え、何とも言えない表情で帰着する中澤。氏の穏やかで優しく真摯な「へら釣り道」は、果てしなく続く…。

シマノアドバイザー
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

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