へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

「獅子吼」で釣りたい、
精進湖・赤池の良型
常に真摯たる名手が、
ヤマの良型と向き合う。
中澤 岳 in 精進湖・赤池【前編】

どんなに年齢を重ねても、へら鮒釣りに対して謙虚に、そして真摯に向き合い続ける本物の名手・中澤 岳。
最高の竿、「普天元 獅子吼」誕生を機に、「獅子吼で釣ってみたい釣り場は?」との筆者の問いに、中澤は穏やかな口調でこう答えた。
「実はこないだね、例会でまったくダメだった釣り場があって(苦笑)。すごく悔しいし、そしてロケーションもへらも最高だから、もう一回チャレンジしてみたいんだよね。いいかな?」
その釣り場とは、精進湖・赤池エリア。
今年は例年以上に型が良く、よく釣れている一方、一歩釣り方を間違えれば貧果に終わってしまうこともあるという。
普天元 獅子吼」を手に再び挑戦する、チョーチン両ダンゴ。
そこには「最高の夏の釣り」が待っていた――――――。

本物の「名手」

筆者もこの仕事を始め、気が付けば20年という歳月が流れた。そして最近、改めてつくづく思う。
「本物の名手」というのは、実に謙虚である、ということを。
へら鮒に対して、道具に対して、自然に対して、
そして、人に対して――――――。
早20年以上の付き合いとなった名手・中澤 岳は、出会った頃と何も変わらず、常に謙虚であり続けている。それこそふた回り近く年下の筆者に対しても、出会った頃から恐縮するくらい真摯に接し続けてくださるのだ。
そんな中澤に、「新しい『普天元 獅子吼』を持って行ってみたい釣り場は?」と振ると、何とも氏らしい答えが帰ってきた。
「先日例会でダメダメだったところがあってね(苦笑)。完全に僕のミスでね…。悔しいし、釣り場自体は最高の場所だから、ぜひとももう一度トライしてみたいんだ。」
もちろん、筆者に否はない。
そして8月4日(火)、やってきたのは精進湖・赤池エリアであった。
何でも直近の例会でこのエリアに入った中澤は、見事に良型に翻弄され、納得のいかない釣果に終わってしまったのだという。
舟宿「ニューあかいけ」に到着すると、元気いっぱいの若主人に続いて、マスターが強烈なジャブを。
「おっ、中澤さん、こないだのリベンジだね!」
そんなやり取りで笑いあえるのも、中澤 岳という人間の人柄を象徴しているように思えた。
他の釣り人に混じってニューあかいけ名物の厚切りトーストをいただきながら、今日の釣りの展望を穏やかに語り始める中澤。
「こないだもね、魚はたくさんいたし、型も良かったんだよね。それで『釣ってやろう!』って力が入り過ぎたのかな。色々と細かいことをやり過ぎちゃってね(苦笑)。だから今日はね、ある意味、野釣りの原点に戻って、あまり考え過ぎずに野釣りらしいチョーチン両ダンゴをやってみようかなって思っているんだ。返り討ちに遭っちゃったらゴメンね(笑)。」
細かいことをやり過ぎちゃって失敗…というのも何とも中澤らしいし、そんな釣りも見てみたいが、どうやら今日は吹っ切れた中澤の釣りが見られそうだ。そして、得てして中澤が結果を出す時というのは、そういう精神状態の時が多い。
そして何より、どんなに年齢を重ねても「失敗しちゃって」と頭を掻ける謙虚さが、中澤らしいなぁと思う。
そして、ついに完成したシマノのフラッグシップモデル、「普天元 獅子吼」である。
「いやもうね、『やられた!』って感じだよね。正直、前作の『独歩』の時点で『もうこれ以上どうやって進化するの!?』って思っていたんだけど、進化どころか、もう次元の違う宇宙に飛んで行っちゃった感じ(笑)。振った感じは紛れもなく本調子の普天元なんだけど、もう調子がどうとかいう以前に、竿自体のクオリティが圧倒的過ぎる。今回は不等長設計にも挑戦し、本調子ながら硬くしないでシュっとした先抜け感も加わっていて、もう今回こそ『これ以上はもうどうすんの!?』って感じだよね。」
そんな「獅子吼」がぎっしり詰まったロッドケースを乗せ、静かな湖面に漕ぎ出していく。

今季も絶好調を維持する精進湖・赤池エリア。今年は例年にも増して型も良く、豪快なヤマの釣りが展開されている。中澤が向かったのは深場の「コタツロープ」で、釣り方はチョーチン両ダンゴだ。

ニューあかいけ名物の厚切りトーストをいただきながら、マスター&若主人と釣り談義。この日の釣りに想いを馳せる。こんな時間もまた、へら鮒釣りならではの贅沢だろう。

いつも釣り道具をとても大切に扱う中澤。ちょっとしたしぐさに「へら鮒釣り愛」が滲み出る。特に竿を扱う時は赤子を抱くが如くで、ロッドケースから取り出す時など、何とも言えない優しい表情を見せる。そして、「富士山をバックにどう?」と「普天元 獅子吼」を手にこちらにポースを取るなど、オチャメなサービス精神も旺盛(笑)。氏との取材は、いつも穏やかで、愉しい。

初代以来、約10年サイクルでモデルチェンジを重ねてきた「普天元」。初代「普天元」、「普天元 大我」、「普天元 独歩」ときて、今回の「普天元 獅子吼」では、普天元らしい王道の本調子を守りながらも、不等長設計(主に元と元上の長さが異なるのが特徴)に挑み、先にシュっと抜ける先抜け感を演出。しなやかに曲がりながらも、安易に硬さや太さをアップすることなく、大型にも負けない強さを手にしている。…とはいえ、振り込み時、そして魚を掛けた時の「シルキータッチ」は紛れもない「普天元」の感触そのもの。極上の釣り味を享受しつつ、贅沢な時間を堪能することができる。

野釣りらしく、中澤らしく

この日の中澤の「スタイル」は、明確だった。
「こないだ(例会時)はちょっと色々細かいことをやり過ぎちゃってね。結果的に根本的な寄せ不足になっちゃって、釣りを難しくしてしまったんだよね。だから今日は、一言で言えば『打ち切り』。高速回転で打ち切っちゃって、ちゃんとアタリが続く状態を作ってから。そう、原点に帰って『野釣りらしく』だね。」
コタツロープに入った中澤のタックル&エサは、これだ。

●竿
普天元 獅子吼】 15尺
●ミチイト
1.25号
●ハリス
上下0.5号 43―60cm
●ハリ
上下7号
●ウキ
羽根B15cm (※エサ落ち目盛は全11目盛中、3目盛が水面上に出た位置)
●タナ
チョーチン

●エサ(両ダンゴ)

バラケマッハ
200cc
凄麩
200cc
カルネバ
200cc
コウテン
100cc
200cc

「基本的には、ネバダンゴの高速回転打ち、だね。エサ落ち目盛をわざと沈め気味にして、強制的に待てないようにしてある(笑)。野釣りらしい釣りだね。」
野釣りらしい、そしていかにも中澤らしい攻撃的な釣りである。前回失敗した時は、変にサワリが持続してしまうため、思わず待ってしまったり、小エサで喰わせにかかったりして、挙げ句の果てには細かいエサ調整やハリス調整に嵌まり込み、気がつくとカウントが止まっている…ということが多かったそうだ。
「ここ(赤池)は魚影が濃いので、ゆっくり打っていても変にウキが動いちゃうんだよね。でもカウントが止まってしまっているということは、強いアタリを失っている、もっと言えば、喰い気のあるへらが少なくなっている、ということ。要は単純に寄せ不足になってしまっているんだよね。だから今日はその反省を常に頭に置いて、釣れなくても終始速い回転数を維持しようかな、と。」
大きめのウキ、そして決して長くはないハリス。打ち始めはストンとナジんで沈没すると、中澤は即座に竿を上げて打ち返していく。そのリズムは、まるで釣り堀のカッツケを彷彿させるが如く、速い。
「ほら、やっぱり型がいいんだよね。なかなかアタらないじゃない?このアタり始めにどれくらい時間がかかるかって、けっこう重要なんだよね。」
近年はすこぶる型が良くなっていると評判の赤池エリア。しかしそれだけ口数は減っているということであり、サワリが続くからといってクワセを意識したこぢんまりとした釣りを続けていると、喰い気のあるへらの絶対数がどんどん減って、悪循環に陥ってしまうのだという。
「頭では分かってはいても、ついついやっちゃうんだよね(苦笑)。」
サワリはあれば、ついついアタリを待ってしまうのは釣り師の性。「速攻」の権化たる名手・中澤とて嵌ってしまうのだから、へら鮒釣りの魔力とは、誠に強力である。

閑話休題。
さて、ポンポンと高速回転で大きめのエサを打ち返していく中澤。魚の気配が出たのは20分後と、やや時間がかかる。ここで中澤の頭の中に、「今日も型がいい。喰わせにかかるのは、釣りを難しくするだけ」とインプットされる。そして開始から30分後の6時、ようやくはっきりとしたツンアタリが出て「獅子吼」がズバっとアワセを決めた。
「いやほんと、最高の竿だよね、これは…。」
「コクン、コクン」と聞こえてきそうな、その洗練された引き味を堪能しながら、富士をバックに大きく竿を絞る中澤。予想通り、浮上したのは尺二寸級のデップリと太った良型だった。
「いいへらだね!このへらなんだよね。だから難しいし、面白いんだ。」
野釣りらしい釣り、中澤らしい釣りが展開されていく。

15尺チョーチン両ダンゴ、ネバタッチのエサをポンポンと高速回転で打ち返していく、攻撃的な釣り。エサ落ち目盛をあえて沈め気味とすることで、強制的に待てないようにしてあるのだ。寄りの状態を常にキープしておき、「悪循環」に陥らないように注意しながら釣っていく、野釣りらしい、中澤らしい釣り。コタツロープの型はすこぶる良く、明快なアタリで乗り始めたのは、予想通り尺二寸級の良型だった。

午前中、一瞬だけその姿を現した富士をバックに、良型を手にする中澤。「この型だもん、バクバクになるはずはないよね。エサ打ちの回転数で寄りをキープしながらポツポツ釣っていく、くらいの気持ちが大切なんだね。」

フラッグシップ「普天元」で新たなチャレンジとなったのが、不等長設計。普天元らしい本調子を維持しながら、不思議な「先抜け感」を演出することに成功している。当然、元と元上の長さが異なるので、仕掛けが巻きやすいよう、竿袋の下部に仕掛けを掛けやすいプレートのようなものが内蔵されている。

シマノアドバイザー
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

PAGE TOP