へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

「普天元 獅子吼」で味わう、贅沢な釣り。
名手・中澤 岳、秋の佐原で“宝物”に出会う。【後編】

獅子吼で佐原を釣り歩くなんて、考えただけでも贅沢じゃない?」
名手・中澤 岳は「普天元 獅子吼」をロッドケースに詰め込んで、秋深まる佐原向地に飛び出した。
霞ヶ浦や利根川に抱かれ、“日本水郷”とも形容される平場の名所。
折しも秋、最高の季節。
果たして中澤は、この広大なエリアから、
小さく美しい“宝物”を探し当てることができるのか?

前編記事はこちら

「宝物」

渾身の喰い上げアタリに乗ったのは、小さな魚だった。
しかし、マブナのそれとは違う感触、確かな沖走りに、中澤の表情が変わる。
「へらだ!」
水面に浮上した魚に、中澤が思わず声をあげた。へら鮒だ!
慌ててタモを左手でつかみ、慎重にすくう――――――。
「いやぁ釣れちゃったよ。しかも凄いへらだよ...。」
「凄いへら」といっても、それはもちろん大きさではない。その肩の盛り上がった魚体が、何とも素晴らしいのだ。
そう、これを釣りに来たのだ!
「いやほんと、言葉にならない美しさだね...。」
その魚体を眺め、しばし恍惚に浸る中澤と筆者。これまで佐原ではなかなか本命に縁がなかった中澤だが、この1枚で全てが吹き飛んだようだった。
「正直、今日はこの1枚で満足だね...。」
優しくリリースし、次を打つ。
なんと、へら鮒のアタリは続いた。
ググっと返してきて「チクッ!」と落とし、2枚目、3枚目が順調に獅子吼を曲げる。もちろん、喰い上げもある。そして、その全てがまるで「宝石」のような7寸の美しい小べらなのだ。
「夢を見てるみたいだよ(笑)。」
「宝物」は、秋の上の島新川に潜んでいたのだ。

きた! 突然の本命に、思わず竿をタメる中澤。

「へらだよ!」
思わず声をあげ、慌ててタモを手に取る中澤。水面に浮上していたのは、小ぶりだが肩が盛り上がり、見たこともないような綺麗なへら鮒だった...。

まるで、“小さな宝物”。

思わず見惚れてしまう魚体。おそらく、この佐原向地で生まれ育った「天然物」。巨べら以上に貴重な魚体だと思う。

潮来前川、延方水路...

夢のような時間は9時15分、6枚目を釣るまで続いた――――――。
「面白いね。パタっとアタリが止まった」
わずかに水位が下がり始めたのが影響したのだろうか、まるでそれまでが本当に「夢」だったかのように、アタリは完全に消えた。マブナやコイのアタリも消えて無くなったのだ。まるで全ての魚が活動を停止してしまったかのように...。
「うん、6枚も釣ったし、他も回ってみようか」
10時、中澤は竿を仕舞い、ポイントを離れた。
「釣れている」という噂があった潮来前川の街中エリアを見て、中澤が向かったのは同じ潮来前川の「釣れていない」という情報があった「曲松ワンド」東端、水門脇のポイントだった。
「一度ここでやってみたかったんだよね」
急ぎ支度を整え釣りを始める中澤。タックルとエサは上の島新川とまったく同じ。水深はやや深く、1mほど。
しかし情報は確かだったようで、ここではブルーギルとモロコの猛攻でウキがナジまない状況。「へらはもちろん、マブナやコイなど、大きめの魚が全くいないんだね」と納得すると、1時間ほどで竿を仕舞う。
「う〜ん、どうしようかね」
そのまま車で至近の「道の駅いたこ」に向かい、昼食を摂りながらああでもないこうでもないと作戦会議。そんな時間もまた野釣りの愉しさかと、しみじみ思う。
「よし、延方水路でやってみようか。せっかく教えてもらったしね」
実は潮来前川で釣りをしている時、1人の常連さんと思しき方が声をかけてくれ、隣の延方(のぶかた)水路なら型が見られるかもしれない、と教えてくださったのだ。
食事を終え、教えられた運動公園前の土管際の釣り座に入る。意外に水深があって、今日の中では一番深い1本強。同じく「獅子吼」10.5の底釣りで始める。
釣りを始めるとまた常連さん達がやってきて、あれこれと親切に教えてくれる。底でダメな時は、カッツケのような宙釣りで流しながら釣るとへらが来ることもあるという。
「やっぱり実際に現場に来ると勉強になるよね。浅くて流れがあると底釣りしか考えないけど、宙とはね。でも、そもそもへら鮒は宙層魚だからね」
感心する中澤。まずは底で始め、マブナやナマズが連発するようになると、すかさず底を切って宙を打った。エサは常連さんに習って両グルテンだ。
宙釣りに切り替えると何となく雰囲気は出てきたのだが、時折タナゴが釣れるのみ。どうやらこの日は本命はご機嫌ナナメだったようで、並びの常連さん達もついに日暮れまでへら鮒を釣ることはなかった――――――。

「いやぁ愉しかった。上の島新川で釣れたへら鮒は最高だったし、潮来前川と延方水路は釣れなかったけど、また宿題が出来たしね。ほんと、愉しかったな...」

今日一日頑張ってくれた「獅子吼」を労わるように竿袋に仕舞いながら、名手はこの日一番の穏やかな笑顔を見せるのだった。

転戦した潮来前川。「釣れている」という情報があったのは上流部の街中エリアだったが、中澤はあえてロケーションのいい曲松ワンド水門脇のポイントに入った。しかし残念ながらブルーギルとモロコ猛攻に終始。様子を見に来た常連さんによれば、もう少し冷えてくれば面白いかも、ということだった。そして、貴重な情報も頂く。

現地で常連さんから情報をもらって入った延方水路。上の島新川よりさらに小さな川だが、雰囲気は抜群。最近も良型のへら鮒が釣れているとのことだったが、残念ながらこの日はへらのアタリが出ることはなかった。

ご覧のような綺麗なタナゴを始め、生命感は濃厚。常連さん達との会話を楽しみつつ、日暮れまでタナゴやナマズと遊んだ。

釣りを終え、竿を仕舞う中澤。その満足げでやさしい表情が、充実した1日を物語っていた。

シマノアドバイザー
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

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