へら釣り名手の釣行記 “一竿風月”

驚くべき新提案。
豪快野釣りに賴もしき相棒、登場。【後編】

名手・中澤 岳が真冬の野川に飛び出す。選んだ釣り場は苦戦が予想される大型狙いの茨城県牛久水系、稲荷川だ。
大苦戦。
終始肌寒い不気味な薄曇りの中、喰い渋る稲荷川の大型。ノーフィッシュのまま、残酷に過ぎてゆく時間。
果たして、注目のNEWロッドを携えて意気揚々と稲荷川に乗り込んできた中澤は、あえなく返り討ちに遭ってしまうのか!?

前編記事はこちら

「止まった!?」。地合到来!?

右手(東)から吹いていた風もだんだん弱くなり、穏やかな川面。また「晴れる」と予想されていた空も、雲は居座ったまま。時折パラっと雨も落ちてくる始末だ。
「冬は冬らしくないと釣れない…の典型かな。晴れて北風がビュービュー吹くくらいの日の方が釣れるよね。今日はその真逆。だからへらの喰い気にもスイッチが入らないのかなぁ」
しかし、常連氏達が口を揃えた「釣れるのは午後から」を体現するかのように、13時を過ぎるとにわかに周囲がざわつき始める。
まずは正面に入った2人が同時に竿を大きく絞る。取り込んだそれはおそらくへら。デカそうだ。スケールを当てている。
さらに中澤の左側に入った釣り人も竿を絞る。へらだ。
「よし、動き始めたかな」
回し振りにも思わず力が入る中澤。しっかりと振り切り、ウキはかなり見にくいが、先端2目盛を水面に出して、前傾姿勢でウキを見つめる。
稲荷川ならではの40上を想定し、かなり強気のセッティングで挑んでいた中澤。特にハリは大きめで、必然的にエサもかなり大きめになっていた。
「ちょっと強気過ぎたかなぁ(苦笑)」
13時15分、中澤はそう言ってハリを10号から8号に落とす。それでも小さくはないが、エサのサイズはひとまわり小さくなる。
13時35分、振り込んでからそれほど経っていないところ(1分くらいか)でいきなり「ムッ」とはっきり押さえた。
「うわっ…!」
直後、中澤の悲鳴が響き渡る。ゴツンという一瞬の手応えだけを残して、竿は空を切った。
「魚だったね。何かいるよ…」
一気にボルテージが上がる。
さらに10分後の13時45分、今度はボディまでの喰い上げで空振り。
また正面の釣り人が竿を絞る。
明らかに地合は来ている。ここは逃したくないが…。
少し間が空いた14時59分、またしても突然の「ムッ」で、バレる!
「いやぁ、まいったね(苦笑)。今年の野釣りはいまだ苦戦続き。この悪い流れを断ち切りたいんだけどなぁ」
ここで中澤は冷静に、「渋い」と判断。さらにハリを8号から6号へとサイズダウンする。
エサは?
「こういう野川って、釣れないからって単に繊維の強いグルテンの単品みたいなエサって、案外よくないんだよね。よけいアタらなくなったりする。『野釣りグルテン』ってけっこう持つし、実績も自信もあるブレンドだし、エサはこのままでいくよ」

並びの常連氏によれば、昨日はこの時間にはすでにアタリっきりだったという。やはり今日は「渋い」のだ。
そんな渋さに、ハリのサイズのみで対応した中澤。その答えは…
15時40分。ボディまで喰い上げる。
乗る。強烈な沖走り。
止まるか!?

待望のへらの引きを受け止める「ボーダレス GL Nモデル」24尺。ただ強い、ただ硬い竿ではこの「最初のひとのし」に耐えられない。そういった意味でも、「ボーダレス GL Nモデル」はシマノらしいしなやかさもきちんと持ち合わせた「曲がる竿」であった

待望の1枚。

止まった…!
「バレるなよ…」
竿のパワーは強烈。為す術なく水面に顔を出したのは、紛れもない本物!

ゆったりと立ち上がる「ボーダレス GL Nモデル」。歓喜の瞬間

慎重にタモを差し出し…
「よかった…!釣れたよ…!」
喜びを爆発させる中澤。
「そんなに大きくないけど、そんなことは問題じゃないよね。とにかくこの1枚は嬉しいなぁ!」
38cm。40cmに届かない、稲荷川にしてみれば「中型」。しかし川べらの風格十分、素晴らしいへらだった。
「いやぁ、しかしあの沖走りは強烈だったね。水深も浅いからなおさらだね。1回目の喰い上げの時は空振りだったから、タメにタメたよ(笑)。いや冗談抜きで、ただ硬い竿だったら止まらなかっただろうね。ボーダレスは強いけど、ちゃんとシマノらしくしなやかに曲がってくれるからいいんだよ」
実際、このような野釣りで「釣れる」には運の要素も強いだろう。しかし、ハリを見直し、中澤らしく動き、また辛抱強く喰い渋る冬の野べらと向き合った結果の、「待望の1枚」だった。

待望の1枚目は38cm。稲荷川にしては控えめなサイズだが、苦労に苦労を重ねて手にした冬の野の1枚の喜びは、何物にも代え難い。何より、中澤の表情が全てを物語っているだろう

プライスレス。

歓喜の1枚目の後、まさかの南風が吹くと同時に再びアタリは飛んだ。
真冬とは思えない生暖かい空気が辺りを包む。
結局、最後まで青空は出ることなく、夕まずめの時間を迎える。
「思い通りにいかないね、釣りは。今日は天気予報も大外れ(笑)。でも、こういうのがまた面白いんだよね。逆もあるから…」
どんなにテクノロジーが進歩しようと、人間が自然を完璧に捉えることは不可能だ。でも、だからこそ「釣り」という遊びが成立しているとも言える。
予報を大きく外したこの日、まるで梅雨時期のような雲が終始空を覆った。風も吹かず、へら鮒のご機嫌もナナメ。でも、だからこそ釣り人たちは試行錯誤を繰り返し、夢中になり、心から釣りを楽しむのである。
「全部思い通りにいっちゃったら、これほどつまらないことはないよね」
続々と周囲の釣り人達が帰っていく中、中澤は嬉々として動かなくなったウキを見つめていた。

17時を過ぎ、いよいよウキが見えなくなってきたその時…
「ムズッ…」
微かな変化を、中澤がとらえた。
「やっぱりまだいたんだ!」

誰もが諦めたラスト、中澤の「ボーダレス GL Nモデル」が雲間から現れた夕陽をバックに豊かな弧を描いた。またしてもサイズは控えめだったが、その感動は無限大。まさに「プライスレス」だった

上がりべらは36cm。
これもまた稲荷川では小さめのサイズで、「ボーダレス」は余裕をもってその引きを受け止める。そして、中澤の弾ける笑顔がこの日の釣りの楽しさを物語っていた。
サイズなど関係ない。
その感動、プライスレス!

上がりべらは36cm。稲荷川にしては小さめだったが、素晴らしい魚体だった

シマノインストラクター
中澤 岳

1955年、茨城県生まれ。
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。

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