フィッシングコラム

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ON THE STREAM

VOL.48 「夏枯れ」

里見栄正氏閉め切ったはずのカーテンの隙間から鋭く眩しい夏の光が差し込んでいた。そろそろ9月だというのに下界では猛暑が続いている。高原の空だけは異様に高く、そして青く澄んではいたが、吹いているはずの風に音はなく、ギラつく水面から顔をのぞかせている石も、まだはらんだ熱を放射することを忘れてはいない。こんな年はいきなり秋がくるのかもしれない。

水温は決して高いとは思えなかったが、しばらく雨らしい雨がないことが唯一の気掛かりだった。そのせいなのか落差があるに関わらず、なんとも弱々しく動きの鈍い水面が流れを占領しているようで、どうもメリハリが感じられない。流れの早い芯からの反応など最初からイワナという魚に期待はしていないのだが、早く強い流れがあってこそ、そこに存在するあらゆるものと干渉しあって、急激にブレーキの掛かる、いわゆる食わせるための水面が形成されるのだ。これが雪代明けで水量が落ちきって、という状況なら、もともと怠惰な性質がウリのイワナを釣るには最高の条件なのかもしれないが、その性格をさらに研いたこの時期にこの水況はどこかイヤな予感が漂う。

流れを歩けば無数のイワナが走った。慎重に歩を進めれば、およそ釣りとは無縁と思われる、なんと表現していいのかわからないような、水の動きの止まった浅い砂地や小石底の背びれが露出しそうな浅場にその魚体を預けて、まるで寝転ぶような体勢で、ただジッとしている個体がいくらでも見つかる。しかし手が出ない。どうあがいても釣り人に勝ち目はなかった。ならば、そのまま静かにしていてくれればいいのだが、人の気配を感じれば、あっという間の猛ダッシュで深場や石の下に逃げ込む。さらに悪いことには、何尾もの仲間を道連れにするから、小さな瀬だけでなく、広いプールでさえもポイントとしての価値をほぼ失うのだった。

里見栄正氏釣果これがまだ夏の初めなら、逃げ込んだあたりにフライを投げ入れれば、結構な確率で返事があったりするものだが、夏バテ気味の流れではピクリともしない。お勉強してますねェ・・・・・。それでも、こちらの気配を悟られずに済むポイントからは、稀に反応だけはある。ただ型は総じて小さい。逃げ惑う尺クラスを何尾も目撃しているだけに、納得のいかないまま時間だけが過ぎて行った。

イワナという魚はどこか謎めいているような気がする。おおらかで無邪気な一面、これは否定しない。反面、狡猾で気難しく、頑な部分が前面にでてしまうと手に負えない、という場面に何度となく遭遇してきたのも事実だ。そういった意味では、正直に勢いのままフライに突進して、ネットの中で『やっちまったァー』的な表情を見せるヤマメのF・Fがシンプルにさえ感じられる。どちらが・・・・というようなことを論じるつもりはないが、少なくともヤマメの辞書に『老獪』という文字はないようだ。そんなことだから「あー、混棲だったらなぁ」なんていう言葉をいまにも発しそうになるのだった。

浅場のイワナを蹴散らしつつ、ヘロヘロになりながら退渓予定の堰堤に到着した。報われない釣りは予想以上に疲れるもので、ベストに入れておいた2本のスポーツドリンクはすでに一滴も残っていなかった。僕は堰堤から流れ落ちた水が大きな巻きをつくりながらゆっくりと流れ出す尻のまた尻にできた、小さく規則正しい波立ちを持つ水面に必要以上のロングキャストで、そっとフライを投げ入れた。フライとティペットの先端だけが水面に乗り、一ヶ所に留まったまま、かすかに揺れながらゆらゆらと漂っている。そして打ち返しどころか一度もピックアップしないまま、休憩といっていいほどの長い時間が過ぎたようとしていた。最後くらいは流れとイワナのペースに合せてもいいと思えたのかもしれない。やがて集中力が落ちたのか、水面に変化があったはずなのにそれすら気がつかないでいる。フライがない・・・・・。いつからなのか、直前、数秒前、あるいは一分以上前なのか、全く判然としないまま、なにげなく煽ったロッドの先で、この日唯一納得の一尾が踊り、僕の夏が終わった。