フィッシングコラム

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VOL.45 「執念:長野県千曲川水系」

里見栄正氏雪を抱いた浅間山の姿にはフーッと溜息をつかせてしまうような美しさがあると感じている。解禁日の朝故の感慨が余計にそう思わせているかもしれないが、千曲の釣りは浅間山とセットになっている部分が僕の中にはあるのだ。それにしても寒い。そして混雑している。とにかく午前中はこれまで見たこともないくらいの釣り人で、駐車もままならないほどだ。特に年配の釣り人の多さには驚かされる。

平日の解禁ということも大きな理由なのだろうが、年金暮らしと思しき地元の釣り人が、早朝から大挙して様子を見に来ているという雰囲気なのである。しかし、釣れないと判断すれば、気持ちがいいほど、あっという間に消えている。まァ、明日も明後日も・・・・・という、ある意味恵まれた環境の中にいると推測できるだけに、話をしてみれば、ガツガツしたところがなく、こちらが思っているほどには釣果に固執しているわけではないことが読み取れる。そんなわけで、午後になると流れには僕ひとりだけという状態。裏を返せばそれだけ状況が悪いということの証みたいなもので、結局この日は渓魚との出会いを果たすことなく終了と相成った。

少なくとも、これで暖かくなるまでは千曲川水系に出掛けることはないと僕は思っていた。しかし、釣れなかったとはいえ、あのポイントこのポイントと、記憶の中に広がる光景に抗うことができず、3日目には再び同じ流れに立っていた。午前中の気温はマイナス10℃。水温こそ4℃と解禁日と変わらなかったが、条件が上向いているという印象もなかった。そしてそれ以上に気になったのが、日曜日だというのに、他の釣り人の姿が皆無ということ。解禁日にあれだけいた地元の老釣師さえ見かけない。混みあっているのはいやなものだが、釣り人の全くいない流れというのも、どこか見捨てられた釣り場のようで寂しいものだ。

ポイントの形はどれも素晴らしく、どこからでもヤマメやイワナが飛び出てきそうな気配に満ちていた。タングステンビーズを使った重めのニンフで、底近くを丁寧にトレースして行く。もはや低気温さえも気にならないほどの集中であるが、長い距離を歩いたにも関わらず、陽が傾く時間になっても解禁日同様、釣果に恵まれることなくタイムリミットを迎えようとしていた。それでも『ホントに真面目に釣りをしたな・・・・』と思える一日がくれた充実感のほど良い酔いが回っていたのか、この時点では、どのような結果も受け入れられる心境にはあった。

残すポイントはもういくつもなかったが、幸いにも、まだ集中力は温存されていた。ふたつの流れがぶつかり合い、僅かな潮目をつくりながら落ち込みに向かって開いていく水面を流れるインジケーターを凝視していると、そのすぐ後ろの水中になにか白っぽい物体が浮上したような、いや錯覚か・・・・。

釣果タバコに火を点け少し休ませた後、何度か同じレーンにフライを通すが反応はない。やはり錯覚だったかと思いつつ、仮にあれが魚だとすれば、流れるインジケーターに反応したか、ドラグが掛かって浮き上がり加減のフライを追ったかのどちらかだろうと読んで、浅めを流れるようインジケーターをずらし、かじかむ指先を叱咤しながら、ワンサイズ小さいフライに交換してタバコをもう一本。今度は明確なアタリとブルッとした一瞬の手応え。が、フライは僅かな感触を残して宙に舞った。『触っちゃったァ~・・・・』。いつもならこれで渓から上がるところだが、この日は違っていた。一尾に対する執着。魚がいるとこの日初めて確信を持てた以上、このまま諦めるわけにはいかなくなっていた。

『なんとしても釣りたい』強い心の叫びにタバコ数本の大休止。今にして思えば、絶対に外したくないという気持ちを込めた、投げる前からアタリに身構えているキャストとでもいうのだろうか、一生のうちでも何回あるかといった心理状態でのプレゼンテーションが決まる。僅かな時間が経過し、気がつけば目の前に、雪にまみれバタバタと暴れている真っ黒なイワナがいた。にも拘らず、途中どうやり取りして、どうランディングしたのかが思い出せない。ただ、やたら焦って興奮していたことだけはしっかり憶えているんだけれど・・・。