フィッシングコラム

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ON THE STREAM

VOL.42 「拡散」

釣果岩手にあるその流れに通い始めて十数年になる。釣りはもちろんだが、流域に一軒しかない古びた宿も気に入っていた。老夫婦、といっても実質おばちゃんひとりで回していることもあって、余程のことがない限り一組限定というシステムなのである。最新の設備などというものとは無縁ではあるが、誰に気兼ねすることなく羽を伸ばせる雰囲気と、気立てのいいおばちゃんのもてなし、さらに驚くべき低予算とくれば、ある程度人気化するのは仕方のないところ。実際、6月のベストシーズンには2度断られてもいた。

そんなこんなで、今シーズンの初見参が叶ったのは、すでに8月も半ばを過ぎる頃だった。ターゲットは荒食いの時期を迎えているであろうイワナだ。宿のあたりから混棲で好ポイントが続くのだが、川岸にアシが認められるうちはまだヤマメも多く、アシが切れてブナと入れ替わるあたりからはイワナオンリーとなるのだった。そういう意味では、指標としてのアシは絶対で、非常にわかり易く、それに従うだけでこれまでの十数年間100パーセントの的中率を誇っていた。

しかし昨年から少し様子が変わってきたような印象があり、ブナ林の中でも何尾かヤマメが顔を出すことがあった。その時は、まぁ、そんなことも・・・・という程度の認識で、気にも留めていなかったのだが、今シーズンは絶対的な境界だろうと考えていた滝を越え、さらに取水のための大きな堰堤の上にもヤマメの姿があった。しかもそれはどう考えても、移動してきたという数ではなく、漁協の放流によるものであることは疑う余地はないように思えた。少し興醒めの感はあるものの、釣れるヤマメは尺にこそ届かないものの、十分な体高と立派な尾ビレを持った美形揃いで、文句を言ったらバチが当たりそうではあるが、納得のいかない部分も残った。

最近は明らかにイワナ域であるはずの区間にヤマメを放流する。あるいはその反対に、ヤマメの生息域にイワナを放すといった行為が頻繁に行われている。漁協それぞれの事情や都合はあるのだろうが、何故?と思えるくらい不向きな環境でもお構いなしだ。と憤りを覚えもするのだが、現実はちょっと違ったりもするのでややこしい。というのも、絶対に定着はしないとタカをくくっていた区間であっても、それは立派な魚体に育っていたりするケースが珍しくないからだ。そんな現実に直面すると、僕が知らないだけで、かつてはヤマメならヤマメ、イワナならイワナが暮らしていた過去があって、むしろそれが本来の姿なのかも、と妙に納得してしまったりもする。

釣果今が全くその心境だった。イワナにとっても決して棲み心地がいいようには見えない細流から、さらに似つかわしくない頭の尖ったグラマーなヤマメが飛び出すのである。気持ちの中ではイワナと決めているので、さらに上流を目指す。流れは狭く、ブナよりも白樺が目立つようになっている。さらにその白樺が雪の重みで曲がり、夏を迎えた今となっても元に戻ることなく流れのど真ん中に倒れこんで行く手を阻んでいた。それでも、フライの消耗を覚悟すれば、釣り場としての体裁さえ整えていないように見える水面に突き刺さった枝の僅かな隙間から面白いようにイワナが釣れた。

が、こちらが思っている以上にヤマメは勢力を拡大しているのか、やっと目指す純然たるイワナ域に到達したと安堵したのも束の間、思い出したようにヤマメの攻勢は続き、こちらの思惑は見事に裏切られる。さすがに数は減って、このあたりまで来ると、放流後に残ったというよりは、ある程度下流に放たれた個体が遡上したものだろうと想像できるのだが、僅か2年の間に恐ろしいほどの変容である。「来年次第かな・・・・」。もはや元に戻ることなどあり得ないと薄々感じながらも、僕はどうしてもこの状況を素直に受け入れることができないままその渓を後にした。