フィッシングレポート

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ON THE STREAM

VOL.13 「学習」

里見栄正氏 これほどまでに怯えきったイワナは初めてだった。旧盆過ぎの流れであれば、ある程度間引かれていることや、スレていることは当然だとしても、捕食にとって理想的な水面、いわゆる好ポイントであるが、ここでエサを待つイワナの姿が全くないのだ。3~4キロの区間を釣ったというのにとうとう走るイワナを見ることは一度もなかった。

その流れは仲間うちでも評判になるくらいにイワナの濃い釣り場だった。ほど良い落差を持ち、川底はいたって健康。もちろん水生昆虫の成育も良好で、雪代が終わりかけた頃に釣られたイワナでさえ、はちきれんばかりの魚体を誇っていた。両岸にはブナの森が迫り、水生昆虫以上に陸生の餌料もまた豊かであることは明白。だとすれば、さらにひと回り成長を遂げたイワナへの期待が膨らむのは当然のことではあった。

事実、ポイントそのものは素晴らしく、どれもテキストにしたいくらい見事な顔を持っていた。しかもそれが途切れることなく延々と続いているのだから、いくらなんでも…であるが、さすがにゼロ行進からの脱却が思うにまかせないとなれば、『流れの釣り』を諦め『穴釣り』のスタイルへと傾いてしまう。

普通ならそれだけである程度の成果が見られるのだが、今日はすこし様子が違う。何が?といわれるとうまく説明できないのだが、積極的にエサを追うという印象が少しも感じられない。常識的には穴釣りであっても、水面に動きがあったほうがあらゆる点で釣り人に有利なものだが、稀に反応はみせるものの動きのあるものを拒絶するような素振りが目立つのである。

流れて来たエサ(フライ)を捕食しては結果として痛い目に遭う。場合によってはそんなことを複数回繰り返してきた末の行動のようにも思えた。よくよく考えてみれば、今シーズンこの流れに入った友人の顔ぶれがまた凄いのである。そんな連中が徹底的にイジメてリリースを繰り返しのだとすれば、イワナにとっては好ポイントほど怖い場所ということになるのだろう。ヒラキやカタに出ていないことにも納得がいく。

貪欲で鷹揚なイメージのあるイワナではあるが、意外に学習能力は高く、どうにも手に負えないという経験は実のところヤマメより多いかもしれない。例えば、僕にとって最も身近な管理釣り場のイワナでさえ、最後にはフライどころか本物のエサを摂ることさえしなくなるケースがあるのだ。そういった習性を裏付けるように、なんとか引きずり出すことに成功したイワナはどれも期待とは裏腹に痩せている。恐らく、猜疑心の塊と化して積極的に流れに出てエサを待つことを拒絶し、滅多なことでは口を使わないところまで追い詰められている

それでも夕方近くになると、岩の割れ目にできる淀んだ水面にミッジがかき寄せられ、その中でも岩にへばりついたものだけを摘み取るように口にするイワナや、流芯を外れた細く弱い流れが岸の岩盤の下に潜り込むあたりでのライズが認められるようになってはいた。本当はそれすらもいやで、じっと身を潜めていたいのだけれど仕方なく……といった匂いが感じられた。

真夏の山岳渓流でマッチザハッチ。それも究極のミッジングである。ドリフトというより、正確なプレゼンテーションが命。SCL7033の最も得意とするシチュエーションかもしれない。誘いのアクションもこんな時は警戒心を煽るだけだから、ただひたすら待つだけだ。ユラユラとフライに近付いたイワナが、小さなフライをジッと凝視すること数秒。が、口を開けてからは一瞬の出来事。ここで失敗するケースが多いのだが、僕もこういったシチュエーションが得意な方なのだ。イワナ同様学習もしているというわけで……。