深い霧が立ち込める夜明け前。
トレーラーに載せたボートを港までけん引するライオネル船長。
途中のスタンドでボートに燃料補給。
驚くことにスタンドには「CAR WASH」とは別に「BOAT WASH」船を洗う専用スペースが確保されている。出航時間が共通するせいもあってか、オレンジ色のライトに照らされた早朝のスタンドには次々とトレーラーを引いた車が立ち寄る。
エサや氷の調達は港を管理する購買部で揃えることが原則。
浮き桟橋とウッドデッキで組み合わせたポンツーン(浮き橋)からなる小さな港である。
朝昼の気温差が20℃近いため海面には靄(もや)。陽が昇るにつれ、その靄もようやく収まりつつある。いよいよボートはニュージーランド釣行初日の海へと出航した。
ターゲットは「ヒラマサ // King Fish」である。
ボートから活きエサを使った泳がせ釣りで狙う。
まずは活きエサの確保からはじまる。活きエサになる魚は「カウアイ」というボラ・サバに似た魚で、体長は30〜70センチ以上とそのサイズは実に幅広く、この魚もまたフィッシュイーターだ。70センチ以上のカウアイともなれば、これをエサにするヒラマサのサイズは当然デカイ。50キロオーバーのヒラマサが期待できる。無論、躊躇なく大型のカウアイをキープした。
カウアイ以外に活きエサになる魚は「ムロアジ」「シマアジ」がベスト。しかし、活きエサが手に入らない状況では、その種類に贅沢を言っている場合ではないだろう。どんな魚でもかまわず泳がせる。しかも大きめなエサを選り好んで。
大きな餌。
それが身エサであれ、活きエサであれ、大きなエサに対し釣り人の受ける第一印象は個々に違いがある。
自分としては、エサの大きさは釣果に比例し「デカイ餌にはデカイ魚が喰う」と受け止めている。そんな大きなエサを付ける「ハリ」もまた大きくなくては意味がない。大きな餌に小さいハリは愚の骨頂ということだ。
[大きいエサ・大きいハリ・大きい魚]・・
国内で大物を狙う仲間、海外で知り合った釣り人、ガイド仲間のあいだでは「BIG BAIT BIGHOOK BIG FISH」は常識とされている。勿論、相手かまわずこの原理を無理に押し通すつもりは毛頭無い。必要以上は必要とせず。目的がハッキリしているからこそ、選ぶ道具のサイズに迷いはない。これを誰に教わるわけでもなく、自らが海で経験し、そう判断した結果に辿り着いた釣り人たちが偶然居合わせただけのことである。
釣りの思想・スタイル・空間。国内も海外も共に素晴らしいモノがある。
日本と海外、それぞれの違いをどこに感じるか・・
ひと目で違いを感じる点は、服装・弁当・港の設備や船の構造といった普通に見る場面で衝撃を受けることが多々ある。
海外で見かけるウェアーは、日本製のように特殊素材を使い、優れた機能を備えているものは極めて少ないが、シンプルかつシックなデザインに多くの日本人は惹かれる。
各自が持ち込む弁当も、大勢でひとまとめにする弁当も、プラスチックのタッパに無造作に押し込まれたサンドイッチ。衛生面は抜きに、中身を平らげればゴミになりそうなものは一切ない。
港内の設備・船の構造・艤装・安全面では多少改善は必要かもしれないが、港内の至る場所、船内、給油所には心躍るアートや音楽が必ず存在する。
釣りが進行する流れの中で、レジャー感覚をひとときも忘れさせない遊び上手なスタイルを海外から学ぶことは決してマイナスではない。

そしてもうひとつ・・シンボル的存在となるデカイ魚のレプリカやアートがここかしこと掲げられている。そのサイズが大きければ「サメ // Shark」も立派な対象魚として歓迎される。大きい魚をシンボルにするその先には、大きい魚がいい環境に生息することを象徴として海の環境、資源を保全する姿勢へと繋がっているのだ。釣りを通して人と自然の調和をはかるビジョンが確立されている国はその活動に自信と誇りを持っている。
日本と海外の相違点。その差を比べるものではなく、互いに認め合い、善いシステムを取り入れ合うことで自然と人の上手なつき合い方を見いだせるはずだ。その最初の一歩がキャッチ&リリースである。
必要以上を必要とせず、食べるならば食べる。逃がすならば、すみやかに逃がす。その定着はゆっくりと時間を要してもかまわない・・それが日本の海のためになるものならば。

ファカタネの港前ではじまった活きエサの確保は順調に進み、カウアイの数はノルマに達した。そしてもう一箇所、ムロアジが捕れそうなポイントに立ち寄る。ニュージーランドでムロアジを釣るとは意外だった。ムロアジの群れに遭遇する確率はかなり低いという話しだが、ポイントを移動して30分も経たずにムロアジを確保した。
南半球のこの海で「ムロアジ」が釣れた・・本音を言えば何よりもインパクトの強い出来事だった。
準備はすべて整った。
ライオネル船長はヒラマサのポイントであるあの火山島「ホワイトアイランド」に船首を向けボートを進める。キャビン内に音楽 // ROCKが響き渡る。
国籍の違う、言葉もろくに通じない、昨夜出逢ったばかりの仲間が、魚を追ってボートに乗り込みROCKを聴きながら東に向かって走っていたその時、海岸線から数マイル離れた海域で水色に変化が現れた。
グリーンウォーター(緑色)からブルーウォーター(藍色)に変わった。
そこには、思い描いていたブルーウォーター以上に「ブルーウォーター // 藍色」な海が広がっていた。
「釣りには、釣果以上に得るものがある」というが、憧れていた海域・正真正銘の「ニュージーランドのブルーウォーター」を目の当たりにできたことがとても嬉しかった。隣にはROCKを口ずさむライオネル。そして左舷後方を十数頭のイルカが追っていた。
未だかつてこれほどまでに感慨深い海時間を経験したことはない。
ただ一つ心残りだったことと云えば、この時の気持ちをライオネルに伝えられなかったことだ・・

